第三話 その笑顔、嘘くさいですよ?
―case1 俺様生徒会長(月森 真)との出会い――転校手続きの少し前の時間。
定番も定番に彼女は学園で迷子になった。
これも、生徒会長との出会いのシーンの為。
(俺様だからこそ、キツメの攻めの言葉を浴びせられながら、せめて踏まれたい……)
ちょっとしたラッキースケベならぬ、ラッキードMを狙っていた彼女はミスをおかす。
迷っている振りをしている愛夢が、背後から「おい、お前」と声をかけられ、ここだ! とばかりに、勢いよく「はい!!」と返事をしたのはよかった。しかし、勢いが付きすぎて振り返った時に足をぐねり、生徒会長に金的をくらわしてしまう。
痛みに悶え、目の前でうずくまる生徒会長に対して、思わずでてしまった言葉がこれだった。
「大したモノもついてない癖に、いっちょ前に痛がるんじゃねーよ!!」
「……!」
「……!」
(ち、違う。これは、言いたい言葉じゃなくて、“言われたい言葉”なのに!)
余談だが、自分が“男”だったら、ぜひ女王様に言われたい言葉を愛夢は授業中ノートに書き留めていた過去がある。
日々妄想を膨らまし、ノート一面に『愛夢はバカ』『キモイ』から始まって、こういう風に脅されたら悶えるだろうなというセリフを書き連ねていた。そのノートは小学生の頃からつけられていて、ある日、母親に中身をみられる事となる。
忘れもしない、冬の事。
学校から帰って来て愛夢は異変に気付いた。電気も付けていない真っ暗な部屋で母親がソファーに座り、うなだれていたからだ。そして、机の上には愛夢の大事なノート。
この展開は予想してなかった!? しかし、これはいい傾向じゃないのか?! と愛夢は心を落ち着かせる。
愛夢としては、母親に「こんな事を書いて! あなたはうちの娘でもなんでもないわ!」と罵られるのを期待し、瞳を潤ませ、母親の出方を待った。
しかし(愛夢にとって)残念な事に母親は良識ある母親であったのだ。 愛夢に気付いた母親は、すぐさま泣いて娘を抱きしめ、娘が虐められているのではと心配し、学校にまで連絡したのだ。 急きょ、学級会が開かれ、クラスメートは愛夢を苛めている輩(本当はいない)を恨み、愛夢を守ろうとした。
その出来事があってから、ノートに“言われたい言葉”を付けるのを断念し、心の中で常に罵詈雑言のレパートリーを増やしていた。
それが、ポロリと口から出てしまったのである。
失敗した! と若干泣きそうになったが、目の前の生徒会長は、愛夢の言葉に驚き、目を見開いたのも束の間、「貴様……2年か」と睨みつけてきたのだ。
その殺意満点の視線に(キタ――!!)心躍らせ、テンションがあがる。
そして「日高 愛夢! 逃げも隠れもしないから、いつでも来な!」と、何世代も前のスケバン口調で、最後にもう一度、金的をくらわして去って行った。くらわした瞬間、またやっちまったと思ったが、これで嫌われるのも手っ取り早いと思い直し、今後の為に必要な事だったと自分を納得させた。
そしてその事件後、何をどう思ったのか、思惑とは違う方面(好意的)で、生徒会長に興味をもたれ、愛夢は頭を抱える事となる。
顔を赤らめながら一言。
「俺に、刃向うのはお前くらいだ」
―case2 腹黒副会長(火野 千景)との出会い――廊下。
愛夢が、廊下を走っている所、副会長にぶつかり、紳士的に手を差し出してくれた彼に対して
「ありがとうございます。 でも、その笑顔、嘘くさいですよ?」
……なんて定番のセリフを言うべき所、愛夢は目先の“快感”に心奪われ、ここぞとばかり派手に転んだ。
愛夢17歳。 チャンスを逃がさない女の子なのである。
副会長とぶつかった時、久しぶりに感じた“痛み”が物足りなさすぎて、我慢が出来ず、欲がでてしまった……M心が疼いてしまったのだ!
(これ、いける!)
その勢いのままガラスを突き破り、2階の窓から飛び降りてしまった。
誤算だったのは、ふわっふわの植え込みの上に落ちた事。
「……チッ」
骨一つ折れていない。ガラスで顔に傷一つおっていない己の運の悪さ(?)を掌を太陽にかざし流れる血潮を息吹を、愛夢は恨んだ。
慌てたのは副会長である。
目の前で、女子生徒が自分にぶつかり、窓ガラスを突き破って、落ちたのである。産まれて18年。初めての出来事。
全力疾走で階段を降り、愛夢の元まで走って来た。
眼に入ったのは、植え込みの上であおむけのまま動かず、手を上げている茫然とした少女の姿だった。
「大丈夫ですか!!」
いつものポーカーフェイスが消え、顔を青ざめさせ年相応に見える副会長がそこにいた。
副会長の声に、目をまんまるくする愛夢。
しかし、ピンピンしている身体に不満が顔からにじみ出ていたのか、愛夢は無理矢理、口角を上げて笑みを浮かべ「大丈夫です」と伝えた。
心中では『この役立たず!』と逆恨みに近い感情が渦巻いていたのだが。
自身を安心させる為に目の前の少女が無理矢理につくった(様に見える)笑顔に、副会長の心が痛む。
しかし素直になれない彼は、ホッと息を吐き、めったに見せない本物の笑顔を向けた。
「ふふ……その笑顔、嘘くさいですよ?」
それ以来、目が離せなくなった女子生徒に、副会長は笑顔と共に囁く。
「貴方は私が見ていないと危なっかしい。だから、いつも傍にいなさい」
金的系話。これで二作目。きっと、三作目もある(予言)




