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第二話 違う。そうじゃないの

タグは大事。(読んでくださる方の為にも)

 この乙女ゲームは、定番中の定番。

 ヒロインも攻略キャラも使い古された“生徒会関連メンバー”ものだった。


 俺様生徒会長には、反発して

 眼鏡をかけた腹黒副会長には、笑顔が嘘くさいと言いきり

 チャライ庶務には、素行の悪さを説教し

 双子の会計は二人を見分けて、個人を認め

 寡黙な書記とはまったりな時間をもつ。


 簡単。

 簡単すぎる攻略メンバー。


 すぐに落ちるヒロインを“チョロイン”というなら、彼らヒーローは“チョロー”と呼ばれてもいいくらいだった。


 ビギナー向けのこの乙女ゲームは、捻くれた選択問題もなく、簡単に好感度がアップし、減る事もなかった。

 小学生からプレイOKで、昨今流行りのヤンデレやダークENDもなく、ほんの少しのスパイス。悪役の女子生徒から軽い意地悪がある程度。


 少しでも乙女ゲームをかじったことがあるプレイヤーなら物足りなさ100%。

 一切コクもなく香辛料も使っていない。更には肉も入っていないカレーのようなゲームだった。




△▼△



 トラックパッドで、playボタンをクリックし、映像が流れる。 



 「「「「「「………」」」」」」


 映像の音だけが響く部屋で、一番最初に声をあげたのは櫻子の幼馴染でもあり婚約者の生徒会長だった。


「どういう事だ?」


 愛夢の目が見開き、顔が真っ青になる。



「どういうつもりだと聞いている。---櫻子」

「どうって、観た通りですわ」


 コロコロと上品な笑い声と共に、ウットリとした瞳で映像を観る櫻子。


 そこには、今いるメンバーではない一人の男性と櫻子の仲睦まじい様子が延々と流れていた。


「どうして、俺たちが、お前の婚約者とお前のデート映像を観なければならないんだ?」

「え? ただの自慢ですけど?」


 首をコテンと傾げ頬を染める姿は、恋する乙女そのもの。


「し、白鳥沢さん……あの」

「日高さん。何を勘違いされたのかわかりませんが、私はこの男とは婚約なんて……おぞましい事、高校入学とともに解消いたしましたわ」


 櫻子は、害虫をみる様な視線を生徒会長におくった後、もはや顔面蒼白と言っていいほど血の気のない愛夢の頬を優しく撫ぜた。


「わたくし、反省しておりますの。貴方がこんなになるまで追いつめられていたなんて気付きもしなかった。ごめんなさいね? せめてもの償いに、教科書も体操服も新しいのを用意させますわ」

「…おい、近すぎだ」


 奪い取るかのように、櫻子から愛夢を腕の中に閉じ込める生徒会長。愛夢を抱きしめ、その顔はーー純情(ウブ)にも真っ赤に染まっていた。

 その姿に他のメンバーも意義を申し立て、愛夢を取り合い、もみ合いになる。


 だから、彼らには聞こえなかった。

 愛夢の呟きを。

 心のからの叫びを


「~違う。そうじゃないの」



 




△▼△



 乙女ゲームの世界に転生したと気が付いた時、愛夢は絶望した。


 私が、愛されヒロイン?!

 冗談じゃない。

 そんなの、全然望んでなんかいない。


 愛夢は、数日間寝込み続け、ある光明を見出した。


 愛されるという事は、憎まれると表裏一体。

 もし……イケメン共にちょっかいをかけている女子が本当にいたら?


 彼らの事を好きな女子からはイジメラれ、嫌がらせを受けるのが定石。


 そして、攻略対象者に徹底的に嫌われたら?――それは、それは、過酷な学園生活が待っているだろうと。

 



 愛夢の胸は高鳴る。


 頬は紅く染まり、瞳は潤み、身体は“歓喜”によって震える。



 (なんて、幸せな未来なんだろう)




 --そう。


 愛夢は、変態だった。


 変態のドMのドエロで、可愛い外見からは隠されているが、胸の内は中学2年生の男子生徒がドン引くくらいドエロな妄想で支配され、女王様も「え? その年でそこまで?!」と思わず心内でたじろぐくらいの超ど級のドMだった。


 しかし、不幸な事に愛夢の転生した乙女ゲームは、ダークファンタジーでもなく、攻略対象者が全員ヤンデレでも人外でもなく、口惜しい事に命の危険にさらされない。せめてエロを求めたかった愛夢なのだが、全年齢対象ゲームで手をふれただけでも、耳まで真っ赤にする純情な攻略対象者しかいない健全も健全。PTAや教育委員会も太鼓判を押す乙女ゲームだったのだ。(だから、人気はなかった)


 乙女ゲームが、そうであっただけで、愛夢にとってこの世界は現実。ヒロインの愛夢が変態であったように、真のドSがいるかもしれないという希望が、愛夢にはあった。



 ――だが、それは彼らとの出会いのシーンから裏切られる事となる。



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