あなたの為の
「…思ったより濡れちゃいましたね、雨ひどくなってきちゃったし…」
「そうだね、私ももう少しで止むと教えてもらっていたから油断していたよ…。」
「幸風さん、このタオル使ってください。」
「あぁ、ありがとう。華琳ちゃんもしっかり髪とか拭くんだよ?」
「分かってますよ、大丈夫ですよ。」
心配そうな顔をした幸風さんを見て思わず笑ってしまいながら、真っ白なタオルで髪を拭き始めた。
幸風から思いがけない返事を貰えた後 雨が強くなり始めてしまって、急いで店に帰ってきた。大きめの傘を差していても濡れてしまうほどの土砂降りで、走りながら2人で笑ってしまった。
「…あぁ、そうだ。すっかりタイミングを失ってしまっていたけど、これ。私なりに選んでみたけど、どうかな?」
「え、あ…ありがとうございます…!…わぁ、綺麗…銀の懐中時計、ですか?」
「うん、腕時計、っていうより懐中時計っていうイメージが浮かんだからそれにしてみたんだけど…嫌じゃなかった?」
綺麗にラッピングされた箱をそっと開けると、そこには光を反射してキラキラと輝く懐中時計があった。表には細かい花が彫ってあり、何だか高そうな雰囲気を醸し出していた。
幸風さんが自分のために選んでくれた、という事実に心の底から嬉しくなった。
「そんなことないです、とても嬉しいです…!綺麗だし、見やすくて…素敵です!」
「はは、そんなに言ってもらえると選んだ甲斐があったかなぁ…よかったよ。」
「ありがとうございます!…あっ、その、私も用意したんですけど、その…幸風さんの選んでくれたプレゼントに釣り合うかどうか…!」
「気にしないでよ、私は華琳ちゃんに貰えるって事だけでとても嬉しいんだから。」
「そ、そうですか…?…その、じゃあ…いかが、でしょうか…?」
一応、準備はしてあった。ピンクのカーネーションと少しのかすみ草で作った花束と、瑠璃色の硝子玉の付いた簪。簪はいつも幸風さんがつけていたから、というのと、店を回っていた時、ふと幸風さんの目を思い出したから思わず選んでしまったものだ。
「これは綺麗な花束だね。素敵だよ…ありがとう。それに簪かい?これも綺麗な色だ、本当に嬉しいよ。」
「ほんとですか…?…よかったです。」
「うん、嬉しい。こんな贈り物貰えると思ってなかった。…ねぇ、頭のいい華琳ちゃんのことだから、きっとこの花束は意味があるんだよね?」
「えっ、あ、その、えっと…それは秘密です!」
「はは、意地悪だなぁ。じゃあ、今度調べておこうかな。」
「だ、ダメです、恥ずかしいので…!」
「そっか、残念だなぁ…知りたかったのになぁ…」
「そ、そんなこと言われても教えません…!」
笑いながら 嘘だ、と言った幸風さんを少し睨んで、それからそっと笑った。
あなたの為に選んだ、心を込めた花束を。
カーネーションは「無垢で深い愛」、かすみ草は「切なる喜び」。あなたに出会って、救われて、愛したこと、そのすべてのことに感謝をして、これからもあなたを愛することを誓います、と。
本人に伝えるのは恥ずかしいし、言えるわけがないから、せめて私にできることで。ねぇ幸風さん、調べたら駄目ですよ?




