死者は彼女に見つけられる
短編なので5~6話ぐらいで終わらせる予定です。
次はラナパートです。
(暇だ)
そうは言うが口を開く気にもなれない。そんな事をしても無駄だと理解しているからだ。
私はもう百年と少しの間一人だ。
喋る相手など知性の無い獣か、子どもにも成りきれない妖精か、怨むばかりの亡霊ばかりだ。
奴らから逃げてここで誰にも看取られる事なく死んで早百年余りそれまで何もすることがなく動くこともままなぬまま生あるうちにとけなかった様々な問題を解き明かし続けたがそれももう終わってしまった。
解き終わったのではない、問き様がない事が解っただけだ。
今の私の持ちうる知識では…。
随分と情けない話だ。学門に生き知識を喰らい糧としてきたというのに、まったく、これほど悔しい事はない!この百年に人はまた多くの事を見つけそれを解き明かすために多くの労力を割いてきた事だろう。
だが、
彼らは生きている。生きる事はそれだけで大変な労力を必要とする。
彼らは食べなければならない、彼らは寝なければならない、彼らは次の世代を産まなければならない。
他にも挙げればきりがない、今にして思うと実に不便だ。
だが…私はそれする必要がない!なんせ生きていないのだから!
不眠不休で探求し、食事いらずで、性欲に悩まされる事もない!
自慢にもならんなしかし…!
「暇だーーーーーーーーーーーーーーー!!!」と柄にもなく叫んだのが今にして思えば運のつきだった。
「誰かいるの?」「ッ!!?」
悲鳴をあげそうになった口を肉の無い手が抑え込んで難をのがれたがすぐに危機は舞い戻る。
何時ももたれかかっている大木の陰から一人の女児が顔を出す。
まだ八つになるかどうかといった体つきの幼い顔は最初不思議そうな表情を浮かべていたが、徐々に恐怖 ではなく好奇心で満ち溢れこちらを見つめている。そして興奮気味に声をあげた。
「こんにちは骸骨さん!良い御天気ね!!」「あ、ああそうだな?」
その屈託ない姿に気圧されながら私は答えた。(何で私を怖がらないんだ!?)という困惑八割、残りは(こいつ面白そうだぞ)と、思っているのだから私も大概だ。
だが私はここで忠告を入れる
「だが早めに帰った方がいいぞ小娘「あたし小娘何て名前じゃないわ!ラナ・ヌルソーよ!!」ああそうかい。ラナ、覚えたからあまり大きな声を出すな獣がよって来る」
今度こそ恐怖に歪んだ表情で口を押さえる。(ふん!計画通り。こんな時間にここらを徘徊する獣などいる物か)そう思うがしめしめと思い話を続ける。
「あっちに雲が見えるか?」そう言いながらこの時期特有の積乱雲を指さす。コクコク頷くラナを見て満足そうに一つ頷く私に小声で
「ええ、それがどうしたの?あんなに遠くに有るじゃない」と、答える姿はこの年にしてはかなりはきはきとしたものだった。(随分と利発そうな子だ。しかし…まだまだ知識が足りんな)
「そう思うか?ラナ・ヌルソーこの時期はどちらに風が吹くか考えてみろ。そうすれば自ずと答えは出ると思うが?」
その問いに一瞬困惑を浮かべたがすぐに何か閃いたのかその顔に輝かんばかりの笑みを浮かべる。
(発想力は二重丸だな)そう点を付けつつ「ホラどうした?」
「解ったわ。ありがとう、それとまたここに来てもいい?」
「別にかまわんが大人達には内緒にしろ。力ある馬鹿どもは手に負えんからな」そのひどくつまらなそうな態度のどこがおもしろいのかけらけら笑いながら
「はい!それじゃまた明日、先生!」「先生?私がか!アッハハハ!!」
「何がおかしいのよ!何かを教えてくれる人は先生だって教えてもらったわよ!」
そう不満げな顔で文句を言う姿は年相応だったが、こちらの態度に対する捕捉が必要そうだ。
ひとしきり笑い終えると
「違うお前がおかしいのではない。ただいまお前にそう呼ばれる私が可笑しかっただけだ。ほら明日また来るのだろう?そら帰った帰った!」
そんな私の態度に(・A・)?という何とも間抜けな顔をしながら眺めていたラナは、
「うん?またあした?」其処かしこに疑問符を付けながら帰っていった。
そう言ってこの近くにある村の方角に歩き始めたラナの背中を見送っていたらまた笑いがぶり返してきた。
「この私が先生か、いや実に滑稽だ!死んでで忘れられて百以上の時を過ごした異形がヒトの子に先生と言われるとは実に、実に面白い光景だ。当分暇をすることなく過ごせそうだ」
そういう私はさぞ満足そうに見える事だろう。
そうして少し時がたつとゴロゴローと空を覆い始めた雲から雷の音がし始める。
(やはりあれを早めに返して正解だったな)そう思っているとすぐに大粒の雨が降りはじめる。
その雨粒が地面と気を打ちつけ激しい音を立てる。
何時もならそれを無感動に時に苛立たしげに見つめるだけだが、今日は何故か少し風流だなと そう思えた。
感想待ってます。