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5章



そうして案内された場所は、セレトンが現れた玉座の後ろの深緑の天幕をはいで、床にある扉を開けて、下へ降りてゆく地下だった。

 真っ暗で狭い通路を手で触りながら降りてゆき、かなり行ったところで、セレトンの足が止まった。どうやら、ついたようだ。

 木の扉らしきものを開くと、中は明かりがついていた。


「ひょっとして、ずっとここで避難されていたのですか?」


 マリウスは辺りを見ながら聞いた。

 十人も入ればいっぱいになってしまうくらいの狭さしかない部屋には、およそ似つかわしくない金や銀に輝く杯。それに豪華な飾り細工を施された小箱などが棚においてある。

おそらく、小箱には宝石でも入ってるのだろう。その近くには、金が入ってるのではないかと思われる布袋が重そうに鎮座している。

 アトンとモルスも、その布袋をしげしげと見つめている。


「まあ、そうじゃな。ここに降りてきたのはほんの数日前なんだがな」

「……そうですか。それで、怪物のことや、ここで何が起こっているのか、詳しく教えていただきたいのですが」

「あぁ……」


 セレトンはため息をついて、マリウスを見た。


「あの怪物は、名をメデュウサという。かつては、私の娘であった……」

「……何と?」

 アトンが声をあげた。 

そうかも知れないと思っていたが、そんなことになっているとは。マリウスも驚きを隠せない。


「私の娘、メデュウサは、神罰を受けたんじゃ。何も悪いことはしておらんとうのに、不憫なことじゃ……。今や、あんな姿に……」


 そう言って、セレトンは粗末な木の机に置いてある小さな木枠を持ち上げた。


「これがメデュウサじゃ」


 木枠には絵がはめ込まれていて、大きさは手の平ほどしかないが、細部まで丁寧に描きこまれている。その絵の女性は、先ほど見た大きな絵の女性と同じだった。

 こちらのは小さい絵だが、椅子に座るその姿は、やはり暖かみを感じさせる微笑で、マリウスを見ている。

 軽く波打っていて、胸元まである豊かな金の髪に、思わず触れたくなるほどだ。


「美しいですな……」


 アトンとモルスが、絵をもっているマリウスの後ろから覗きこんでいた。

 マリウスは、慌てて絵をセレトンに返した。


「それで、悪くはないのにどうして神罰を受けることになったんだ?」


 ペルセウスが、この部屋にきてはじめて口を開いた。

 さっきから扉の前に居るままで、メデュウサの絵を見ようともしない。


「それが、私は側にいなかったから、聞いた話をそのまま伝えるが、エリーテ……。私の妻だが、それが言うには、どうやらメデュウサが、自分はアフロディーテ様より美しいと言ったらしい。そんなこと言う娘ではないのだが、神が神罰を下したからには……。だが、それだけなんじゃよ。たった言……」


 セレトンは、重く息をはいた。


「ですが、領主。神を侮辱する言葉が厳禁であることくらい、お嬢様もご存知ですよね?」


 マリウスは、静かにセレトンに声をかけた。


「そうじゃ。そんなことくらい、私が教えなくても、教育する者らがきちんと娘にも教えてあるはずじゃ」

「教育係……ですか」


 マリウスは、ぼそりとつぶやき、アトンとモルスは、顔を見合わせた。


「そういうことは、お父上であられる貴方が自らお伝えするのがよかろうかと……」

「いや、まぁ。そうかも知れぬが、そういったことを含め、いろいろ教えるのは教育係りの務めじゃろう。そいつにまかせておったんだが……。もし神への冒涜についてまだ教えておらんかったのなら、能無しじゃ」


「どっちが」


 ぼそっと、即答えたのはペルセウスだった。が、セレトンから一番遠いところにいた上に、アトンたちが壁となって、本人には声は届かなかったようだ。


「それで、この国の方々は、どうなってしまったのですか?」


 マリウスが、先を促した。


「あぁ、皆、メデュウサの目をみて、石になってしもうたんじゃ。あの目をみるでないぞ。忠告しておく」

「目ですか……。なかなか難しいですね。それで、エリーテさまも?」


 マリウスは、セレトンの目をじっと見た。


「そうじゃ」

「部下も、みんな?」

「そうじゃ。この事態を見れば、わかるじゃろ……」

「それにしては、この館内には、人間のかけら……身体がないようですが」

「あぁ。メデュウサがどこかへ運んだんだろう。もう、あやつの行動は私にはわからぬ」

「そうですか。それで、どうして領主だけ無事なんです?」

 

 マリウスは、穏やかな声で質問した。


「皆が、盾になってくれたんじゃ……」


 セレトンは、視線を床に落としながら答えた。


「なるほど」


 マリウスは、それだけ口にした。


「盾にした、のいい間違いだろう」


 直後、マリウスの代弁のような言葉を発したのは、ペルセウスだった。

 扉に背もたれ、腕組みをしているペルセウスは、今度はセレトンにまで聞こえる声でそう言った。


「いや、本当に……」


 セレトンは、それ以上何も言えないようだ。

かわりに、その額からは汗がにじみでてきている。


「それで、メデュウサどのは、今どこに?」


 マリウスは、ペルセウスの棘のある言葉を、擁護も非難もしなかった。


「あぁ。あれは、もう娘ではない……。ただの化け物なんじゃ。あんなに綺麗だったのに……」


 セレトンは汗を拭った。


「それはわかりましたから、今どこに居るのですか?」

「早く終わらせてくれ……」

「いいから、どこに居るのです!」


 マリウスの語尾の強さに、セレトンが肩をびくつかせた。


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