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2章

 翌朝、マリウスは思い切って、父に自分が知る限りの情報を伝えた。


「そうか。それでお前は不安そうな顔をしておったのだな」 


 二人だけしかいない玉座で、ぶどう酒を片手に聞くガレリウの表情に、危機感はないようだ。


「それで、お前はその情報をどこで?」

「国境の農夫たちからですよ」


 マリウスは、城に留まらず、よく方々へ出向く。それは、勉学で熱くなった頭を冷やし、新たな気を入れるのと、なまってしまいがちな身体を鍛えるという目的の他、村人と世間話をすることで、てっとり早く情報を仕入れることができるという利点があるからだ。


「それは、農夫たちのただの流行話ではないのか?」

「いや、それが異変が起きた後にザウスに行商が入って、その残骸をみつけたようですよ」

「何と……。それにしても、私に報告がこないのはなぜだ」

「警備のものや、使者がまだ知らないだけだと思います。私も聞いたばかりですし」

「うむ……」


 ガレリウはしばらくあご髭を触り、それから椅子の横で控えるマリウスを見た。

 マリウスは、意を決して、口を開いた。


「父上、私が使者として見合い承諾書を持って、出向いてもよろしいでしょうか?」

「な、何を言うのだ?」

「ザウスへは何度も行ってます。西の領土もそう遠くありません。三日ほどで戻りますから」

「そういう問題ではない。もし大きなことが起こっていて、お前の身に危険があれば……」

「なら、アトンとモルスを使者の供に連れてゆきます。あの者たちなら、普通の使者よりよほど頼りになります」

「む……。本当に行くつもりなのか?」

「もちろんです。私の目で確かめたいのです」

「お前、妙なところで好奇心がでるな」

「いえ、そういうわけではないのですが……」


 なんだか、嫌な予感がするのだ。

 民の口だけでは確証がない上に、いまいち解せない、石になるという話。

 本当に何らかの化け物が現れて、国をつぶしているようなら一大事だ。

 それとも、神罰でも下ったのだろうか。

 国を統治する者が大きな不正を働いた時、または神を冒涜した時には、その国を滅ぼす神罰が下ることがあるという。

 それならば、領主もそうだが、国王にも会わなくてはならないだろう。

 いや。あの力を使えば、国王に会うような大事にならずに済むかも知れない。


 マリウスには、知恵の神、アテナの加護がついているのだった。

 六年程前の夜中に、自室で勉強していたマリウスの前にアテナが現れ、日夜勉学に励むその姿勢を褒められ、加護をすると言ってくれたのだ。

 マリウスは、恐れ多く思いながらも、その申し出を受け、その後幾名かの神にも出会ったことがある。


 だが、マリウスはそれを誰にも言ったことがない。父にもだ。

 加護のある人間は滅多にいないから、誰かに漏らすと、悪いことに利用されたり、巻き込まれる恐れがあると判断してのことだ。

 本当に必要だと判断した時のみ、アテナを呼び、その知恵を拝借しようと思っている。


「お前がどうしてもというのなら仕方ない。くれぐれも身分を悟られないように、使者として相応の姿で行け」

「はい。ありがとうございます」


 マリウスは頭を下げた。



 ◇


「なあ、アトン。お前はこの話、知ってたか?」


 マリウスは、手綱を持ちながら聞いた。


「あぁ。つい先日聞いた。だが、ザウスへ行く用事がなくてな」

「そうか」


 アトンがマリウスに対等な口調で話かけるのは、身分から言えば非常識かも知れないが、公式の場では、二人ともちゃんと敬語を使うという公私の区別もついているし、幼いころからの馴れ合いなのでマリウスは気にしていない。


「モルスも知っていたか?」

「あぁ。俺は妻から聞いた」


 この三人の中で結婚しているのは、モルスだけだった。今は、二歳の子供がいる。


「で、名目は見合い承諾なんだろ?」

「そうだが?」


 本当に名目だけだ。とマリウスは続けたくなる。


「相手のうわさ、聞いたことがあるか?」

「いや……? 何かあるのか?」


 マリウスは、やけに笑うモルスを見た。


「悪いうわさじゃないさ。むしろいい事だ。女神アフロディテ様につぐ美しさだと聞いたことがある。まあ、姿を知ってるごく一部の間でだけらしいけどな」

「ほう、そんなに美しいのか」


 うれしそうに相槌をうつのは、アトンだ。


「それなら、どんな欠点も補えるというものだ」


 と、アトンがうらやましそうな目を向けてきた。アトンは、国王とその長男の臣下として働くうに、出会うきっかけを失くしたと、常々嘆いている。

 モルスのように、街へ繰り出した時に上手くつかまえることができないようだ。


「だけど、そんなに美しいというなら、すでに相手が決まってそうだが?」


 アトンが不思議そうに首をひねる。


「いや、相応の相手を吟味しているのだろう」


 モルスは、そういってマリウスをみてきた。

 マリウスは、ちょっと笑って答えた。


「こんな奴は嫌だと、早々に言われて終わりそうだな」

 そんなことはない。と、アトンとモルスは互いに苦笑いを交わした。



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