表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/23

15章

話のキリのいいところで区切るため、この章は文章少なめです。


       6

 


 一月経ち、葡萄がたわわに実るころには、フレアは愛らしい笑顔を皆に向けるようになっていた。

 フレアの何かが変わったと、一番に気づいたのは三年ほど一緒にいる侍女のマチネだった。

驚くほど素直に国王が薦める輿入れの話を受け入れたからだ。

 今までは、それとなく避けていたのは知っていたし、何よりも、フレアが好きな人は言葉にしなくてもわかっていたからだ。

 その状況を知っているだけに、こんなに笑顔で髪結いの飾りを選んでいるフレアを見てると、嬉しいどころか奇妙だ。

 から元気とも言える笑顔に、マチネは思い切って声をかけた。


「フレアさま。本当にいいのですか?」

「何が?」


 フレアは、鏡越しにマチネに笑顔をむけてきた。


「その……。相手を選ぶっていうことですけど……」

「もちろんよ。もう三年もお世話になってるのよ。いいかげん迷惑かけられないしね。本当なら、もうとっくに輿入れしてる年だし」

「そうですか……」


 いい身分の娘なら、確かにとうに嫁いでいる年齢だ。明日二十歳を迎えるフレアは、世間から見ればちょっと遅いと思われているに違いない。

 まあ、適齢な時にアイカスに来て、家事と勉強をならっていたのだから仕方ないだろうが。どうしてそんな時にこんな綺麗なフレアがここにやってきたのか、マチネは一応知っている。

 なので、たまにフレアのことについて聞かれることがあっても、公にしている、親戚筋ということで通していた。

そうでなくても、フレアの人柄は出生を気にさせないくらいよかったので、マチネもいつしか慣れ親しんでいた。 


「それとも何? 私はまだどこかへ嫁ぐには、いろいろ未熟だと?」

「いいえ。そんなこと言ってません。私よりも裁縫が上手いのに、嫌味ですか、それ」


 マチネは、軽く笑って答えた。


「それに、フレア様を欲しがる方は、みないい身分の方でしょうから、家事なんかなさらなくてもいいはずですよ」

「そうなのかしら……」


 フレアは、鏡越しにマチネをみつめてきた。

 ここ最近で、本当にフレアさまは変わった。まだ自然とはいえないが、目もあわせてくれる。その笑顔や視線を合わせる努力のような無理が見えてしまい、マチネはあいまいな笑顔を返した。


「どうしたの? 髪飾り、この髪型に合ってないかしら?」

「いいえ、ぴったりだと思いますわ」


 結局、マリウスさまのことは吹っ切るつもりなのかと、言葉にだして聞くことはできなかった。

 聞かなくても、髪結いをしてる間のやりとりでもう判ってしまったし。

 マリウスさまだって、フレアさまを想ってるのは目に見えている。

 でも、一月前そのマリウスさまも輿入れを薦めたと、フレアさまからきいた。

 マリウスさまが先に想いを告げることもなく、あきらめたということだ。フレアさまもそれが判った上での輿入れ了承と、この笑顔だ。

 本当は二人が仲良くしてるところを見たかったのに。

 マチネの密かな構想と妄想は、実現が難しい状況となった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ