15章
話のキリのいいところで区切るため、この章は文章少なめです。
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一月経ち、葡萄がたわわに実るころには、フレアは愛らしい笑顔を皆に向けるようになっていた。
フレアの何かが変わったと、一番に気づいたのは三年ほど一緒にいる侍女のマチネだった。
驚くほど素直に国王が薦める輿入れの話を受け入れたからだ。
今までは、それとなく避けていたのは知っていたし、何よりも、フレアが好きな人は言葉にしなくてもわかっていたからだ。
その状況を知っているだけに、こんなに笑顔で髪結いの飾りを選んでいるフレアを見てると、嬉しいどころか奇妙だ。
から元気とも言える笑顔に、マチネは思い切って声をかけた。
「フレアさま。本当にいいのですか?」
「何が?」
フレアは、鏡越しにマチネに笑顔をむけてきた。
「その……。相手を選ぶっていうことですけど……」
「もちろんよ。もう三年もお世話になってるのよ。いいかげん迷惑かけられないしね。本当なら、もうとっくに輿入れしてる年だし」
「そうですか……」
いい身分の娘なら、確かにとうに嫁いでいる年齢だ。明日二十歳を迎えるフレアは、世間から見ればちょっと遅いと思われているに違いない。
まあ、適齢な時にアイカスに来て、家事と勉強をならっていたのだから仕方ないだろうが。どうしてそんな時にこんな綺麗なフレアがここにやってきたのか、マチネは一応知っている。
なので、たまにフレアのことについて聞かれることがあっても、公にしている、親戚筋ということで通していた。
そうでなくても、フレアの人柄は出生を気にさせないくらいよかったので、マチネもいつしか慣れ親しんでいた。
「それとも何? 私はまだどこかへ嫁ぐには、いろいろ未熟だと?」
「いいえ。そんなこと言ってません。私よりも裁縫が上手いのに、嫌味ですか、それ」
マチネは、軽く笑って答えた。
「それに、フレア様を欲しがる方は、みないい身分の方でしょうから、家事なんかなさらなくてもいいはずですよ」
「そうなのかしら……」
フレアは、鏡越しにマチネをみつめてきた。
ここ最近で、本当にフレアさまは変わった。まだ自然とはいえないが、目もあわせてくれる。その笑顔や視線を合わせる努力のような無理が見えてしまい、マチネはあいまいな笑顔を返した。
「どうしたの? 髪飾り、この髪型に合ってないかしら?」
「いいえ、ぴったりだと思いますわ」
結局、マリウスさまのことは吹っ切るつもりなのかと、言葉にだして聞くことはできなかった。
聞かなくても、髪結いをしてる間のやりとりでもう判ってしまったし。
マリウスさまだって、フレアさまを想ってるのは目に見えている。
でも、一月前そのマリウスさまも輿入れを薦めたと、フレアさまからきいた。
マリウスさまが先に想いを告げることもなく、あきらめたということだ。フレアさまもそれが判った上での輿入れ了承と、この笑顔だ。
本当は二人が仲良くしてるところを見たかったのに。
マチネの密かな構想と妄想は、実現が難しい状況となった。