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8章

やっと、ヒロイン? 化け物?のメデュウサ登場ですー。

          4



 ペルセウスがメデュウサをみつけたのは、結構早かった。

 メデュウサは城の近くの池のほとりにいた。ペルセウスがすぐ出会えたのは、獣が吼えるような声をききつけたからだった。

 着いてみると、まず大きな熊が石化して転がっているのを見つけた。その傍らに、セレトンが言っていた特徴をもった女が立っている。咄嗟に視線を合わせないように近づいていたが、すでに相手はその存在に気づいていたようだ。

 ペルセウスの方をしっかりと見据えている。

その頭には、女性独特の豊かな髪のかわりに無数に灰色の蛇がうごめき、時折それが威嚇するように声を出す。

 顔はしっかりみることはできないが、その首から下は普通の少女とかわらないし、衣装も領主の娘にふさわしい、質のよさそうな白い光沢のある長い裾のすらりとしたものだ。

 その服に蛇頭なので、とても奇異だ。



 メデュウサからは、攻撃してこようとしない。

 もちろん、手など出さなくても、視線だけで相手を片付けることができるからだろう。

 それならば、とペルセウスは相手の目をみないように気をつけながら、背の矢筒から一本引き抜き、弓をつがえ、放った。

 風を鋭く引き裂くような音をたて、矢はメデュウサへ向かう。威嚇のつもりで、まずは右腕を狙ったが、俊敏な動きでかわされ、ペルセウスは思わず相手を見ようとして、すんでのところで視線を落とした。

 この動き、お嬢様として育った人間のものではない。獣並みだ。油断はできない。もう一度矢を放ったところで、それが無駄になるだけだ。

 危険だが、アテナに言われたとおりの手を使うしかないようだ。

 ペルセウスが剣と、授かった盾を構えた。



 そのとき、マリウスたちが駆けつけてきた。メデュウサは一瞬そちらに視線をやったので、マリウスたちは慌てて手をかざして、その視線をまともに受けないようにして、遠い位置で立ち止まった。

 メデュウサが再びペルセウスに視線を戻したので、マリウスたちはその場で見守ることにしたようだ。それ以上ペルセウスには近づいてこない。

 ペルセウス自身、うかつに近づいてこられて邪魔されては困るので、そこで止まっていてくれるのは好都合だ。

 改めて盾を前にだしながら、跳躍するように仕掛けた。


 すばやく近づいて、剣で首を刎ねようとするが、視線が気になって思い切りがよくなかった。かわされてしまった。

 今度は、アテナに言われたように盾に相手を映そうとして少し後ろを向いたところで、いつの間に近づいたのか、背中を鋭い爪でひっかかれ、慌てて離れた。

 楔帷子を着込んでいたが、それでも切り裂かれ、長い血筋がうっすらと表ににじんできた。軽装であれば、かなり深手を負っていたかもしれない。



 様子を見ていたマリウスも、驚きを隠せなかった。

 マリウスがペルセウスの背中に近づく相手の存在を知らせる間など、全くなかった。アトンとホルスもその動きのすばやさに圧倒され、そして険しい視線を向けた。

 ペルセウスは、今度は盾の裏の鏡になっている部分を表にし、陽光を反射させ、メデュウサの顔辺りにあてた。

 快晴の空から降り注ぐ強烈な光は、メデュウサの頭の蛇を驚かせたのか、それぞれが激しく滅茶苦茶に動きだした。蛇独特の、威嚇する声もマリウスたちのところまで聞こえてきた。

 これがとても有効だと悟り、ペルセウスは何度か反射光を浴びせ、隙をついて首をねらう。だが、盾に視線を隠しても、すぐにそこから逸れる。後ろ向きにして鏡に映しても、

振り返るまでにまた瞬時に間合いをつめられ、剣を振るうどころではない。

 なかなか決着がつかない。



 マリウスたちが助けに入ろうにも、あの視線ではて手がでないし、声だけで加勢しようにも、位置を知らせるような間を与えるメデュウサではない。

 ペルセウスは、何度かわざと隙をつくってメデュウサを近づかせ、振り向き様の攻撃を続けた。

 四度ほど繰り返した時、ついに剣先がメデュウサの右腕をかすめた。

 かん高い声とともに、メデュウサはすばやく後方へ下がった。


「痛みを感じるんだな……」


 それは好都合だと、ペルセウスは口端を上げた。

 メデュウサの長袖が破れ、血が滴っている。

 若々しい、白い肌。

 そこがせめて蛇のような表皮なら、マリウスは顔をしかめることはなかっただろう。

 首から上だけを変えてしまうというのも、アフロディテの罰の一つだろう。



 全てが獣なら。人間の面影がなかったら、マリウスだってペルセウスのように攻撃するのをためらわなかったかも知れない。

 しかし、あまりにも痛がる様が、何とか救ってやりたいという気をせかしてくる。

 今そんなことすれば、ペルセウスと対峙することになってしまうが。

 何のためらいもなく攻撃を続けるペルセウスには、そんな慈悲も遠慮も見当たらない。傷つけたその腕に狙いを定め、連続攻撃を仕掛ける。

 メデュウサが逃げ気味になりながらも、視線で石にしようと睨んでくるが、ペルセウスは巧みにそらした。

 その間にも右腕からは鮮血が流れ落ち、時々左手で患部をおさえている。

 遠い位置から見ているマリウスたちにも、右肘から下が真っ赤なのははっきりとわかる。



 二人はしばらく間合いをとったまま、動かなかった。

 が、意を決したのはメデュウサの方が早かったようだ。人間の足では無理な速度で、ぺルセウスに近づいた。

 ペルセウスは咄嗟に踵を返し、逃げながら斜め後ろ向きに盾の鏡に相手を映した。

 赤い双眸。首から上だけの緑色の肌。大きな口。はっきり見える。鏡を介して視線が合い、一瞬躊躇するが、ペルセウスが石化することはない。

 すぐ後ろまで迫ってきた時、盾のメデュウサを見ながら、足を止め、腰と腕をしなやかに回転させ、剣を構えた右腕を振るった。

 剣先が確かな手ごたえを伝え、盾の写しから、メデュウサの首が落ちてゆくのを確認した。

 最後は叫ぶ間もなかったようだ。

 ただ、直後に不気味なほど生暖かい風が吹きぬけ、それから辺りは妙に静かになった。


    


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