compensation
レオンはクリスに戻ってくるように言った。
しかしクリスは逆にレオンにこちらに来るように指示した。
移動中クリスは「ここに来る前、お前に渡したスイッチがあるだろ?」とレオンに言った。
「あぁ、ちゃんと持ってるけどこれは何なんだ?」
「俺が『弁償(compensation)』と言ったらそれが合図だ、その時に押せ!いいな?」
「あぁ、でも俺はどうすれば?」
「ここに着いたらトイレに向かうふりをして自然と俺の体にぶつかれ、その後はどこかに隠れて俺の合図を待て・・・」
クリスはコーヒーカップを持ちレオナルドの方へゆっくりと近づいて行った。
そしてレオナルドに声をかけた。
「もしかしてあなたはレオナルド・コールドさんですかな?」
「そうですが・・・」
「私はあなたが執筆した経済に関する本を読みました」とレオナルドに握手を求めた。
周りにいる護衛が警戒しクリスの方に向かってこようとしたが、レオナルドは「大丈夫だ」と言いその場を立ち上がりクリスと握手をした。
「それはありがたい、いかがでしたか?私の本は?」
「とても良かったですよ。特に・・・」
到着したレオンは話している二人に近づきわざとクリスの背中に当たった。
その瞬間、クリスは持っていたコーヒーをレオナルドのスーツにかけた。
「おあ~すみません」とクリスはレオナルドのスーツを拭こうとハンカチと鍵の型取りを取り出しスーツに少し触れた時、レオナルドはすぐさま「触るな!」と大きな声で言った。
焦って言うレオナルドを見てクリスは確信した。
やっぱりこいつのポケットには鍵が入っている・・・
クリスは「あ~あ~お高いスーツが、これは私が弁償しますから!」と合図を出した。
レオンはすぐにスイッチを押した。
しかし何もならない。
レオンは何度もスイッチを押したが見た感じ何もなってない。
「兄貴、押したが何も起きてないぞ?」
クリスは心の中で「まさか電池が逆さまなのか?」と思った。
この状況で喋って知らせることはできないだからと言ってレオンに知らせるためにここを離れる訳にもいかない
護衛はクリスをこの場から離れるように言ってくる。
この場に長くいると感づかれる。
クリスは何とかレオンに知らせるためレオナルドに質問をした。
「そういえばあなたは本にこう書いてましたよね?『私は成功者だ』と」
レオナルドはイライラとスーツを拭きながら「それがどうした!?」と言った。
「私はこんな身なりだからあなたの事がよく分からないが貧しい人の気持ちはよく分かる」
「何が言いたい?」
「もしあなたが貧しい人間だったらお金が有り余っている者に対しどのような事を思いますかな?」
「それは当然、我々みたいな者に寄付や仕事を与えたりして欲しいと思うが」
「ほぉ~では、あなたは現在貧しい国や人に寄付をしていると?」
「それは・・・もちろん!」
レオンは静かにクリスの言葉を聴き続けた。
「あなたが富を手に入れるよう神様に選ばれて良かったです」
「それはどうも・・・」
「人生なんて小さなチャンスを掴むか掴まないかの事ですからな。まるで懐中電灯のように電池が逆さまなだけで使いモノになるかならないかが決まりますから・・・まぁ、わしは世間で使い物にならない方に選ばれたがな」
レオンはその言葉を聞いてすぐさまスイッチの電池を入れ替えた。
「兄貴!準備できたぜ!」
クリスは最後にもう一度言った。
「では、わしはこれで失礼するよ。おっと忘れるとこだったよ・・・弁償代」
クリスはポケットから財布を取り出すふりをして、再び鍵の型取りを手にした。
レオンはスイッチを押した。