BOSS
囚人の敷地内での自由時間が始まった。
外の空気を吸える唯一の時間。
クリスはドミニクと接触した。
「またお前か」
「考えは変わったかい?」
「変わるわけないだろ・・・」
「そうか、なら塀の外に出れるとしてもか?」
「ふっ・・・外にね~」
「興味がないのか?」
「外に出てどうする?警察に追われながら、奴の金を使うか?」
「ここの暮らしよりは良いさぁ」
「勘弁しろ、やるならお前一人でやるんだな」
ドミニクはすたすたと前に進んで行った。
その日、クリスにある人物から面会があった。
来たのはギャングのセシルだった。
「何の用だ?」
「今日はこれだけはっきりさせたくてな・・・本当に金はあるんだろうな?」
「あぁ、あるさ。詳しくは金を持っている者がここにいるがな」
「それじゃ、そいつを連れてここから早く出ろ」
「あいにくその男がここから出たがらないんでね」
「何としてでも金を用意しろ!そうしないとお前の弟の体があっちこっちに売られることになるぞ」
「何度も言わなくても金は用意する。だから弟には手を出すな」
「それはお前の準備次第だ。とりあえずお前が俺達の所へ現れるまで、弟は人質だ」
クリスは房に戻り、頭を抱えベッドに座り込んだ。
同じ房の囚人はクリスの事を気にかけた。
「大丈夫か?」
「あぁ、なぁ一つ質問してもいいか」
「なんだ?」
「もしこの刑務所から出れるとしたら、出たいか?」
「当たり前だろ!こんな所、地獄と同じだ」
「なら、逆にここから出たくない者はどうしたらここから出たくなる?」
「そうだな~外の世界で何か変化があった時じゃないか?例えば・・・家族や大切な人が死んだとか」
「大切な人・・・か」
クリスはルートを確認するために休憩時間、それぞれの房を見て回った。
「レオンが言ってた・・・壁に青いシミがある房はどこだ」
一つ一つゆっくりと探した。
そして一階の真ん中の房でそれを発見した。
その房に入ろうとした時、横から誰かが呼ぶ声が聞こえる。
「俺の房に何か用か?」
「ここはあんたの房か?」
「あぁ、お前は確か新入りの・・・」
「クリスだ。クリス・ハヴィンド」
「そうだ、クリスだ。あのドミニク爺さんに絡んでるな~何かあるのか?」
「別に」
「そうか、俺は殺人を犯して終身刑だ。だから一生外に出ることはねぇ~んだ。これは俺の家だ!」
「時間がないから単刀直入に聞くが・・・ここから出たいか?」
「あ?お前、脱獄でもするのか?」
「そのつもりだ。そのためにはあんたの房が必要なんだ」
「そうか、そうか。外にね~」
その男は突然クリスの胸ぐらを掴んだ。
クリスは壁に背中を強く強打した。
「いいか、俺の房に指一本でも触れて見ろ。その達者な口を縫い付けてやる」
そう言うとその男は去って行った。
近くにいた男がクリスに話かける。
「あんた喧嘩売る相手を間違えてるぜ」
「どうして?」
「おめぇは新入りだから知らないと思うが、俺達のボスは看守だ。でもなある意味看守より恐ろしい奴なんだよ」
「何が言いたい?」
「あいつはこの3年間で、この監獄で一番の男になったってわけだ。つまり俺達のボスは看守とあいつだ」
「名前はなんだ?」
「俺達はこう呼んでる」
血にまみれた殺人鬼・・・シェフ・フランコってな。