第3話 笑顔
あれからしばらく、あいつには会ってない。
試験期間だったから私がバイトに行ってないから。
あいつがどうして、あんなこと突然訊いたのか
ずっと気になってた。
久しぶりのバイト。
いつものようにシフトを見つめる。今日は何故か先に近藤のシフトに目が向かってた。やっぱり今日も来てる。
いつも鼻唄まじりに上る階段も、今日は一段、一段が緊張しているのがわかる。
ひさしぶり
いつもの笑顔で木村君が声をかけた。
お疲れ様
笑顔がひきつった気がして思わず顔を下に向けた。
郁がさ、淋しがってたよ
えっ?
ええっ?
下げてた顔を思いっきり上げて木村君を見る。
木村君は、クスクス笑ってた。
そんなわけねーだろ
いつの間にか隣に近藤が立ってて、呆れた顔で私を見ていた。
お前いないと、この店かなり静かだぜ。今度、休みの時来てみろよ
近藤は、
ハハッと笑い歩いて行く。
相変わらずで、気にしてた自分がバカバカしくて気が抜ける。
佐藤、レジ代わってもらえる?郁と荷物運ぶからさ
話す暇もなく木村君は去っていった。
レジ打ちしながら二人の方を見る。近藤がバカみたいに笑ってて、むかついた。
お疲れ〜
近藤は私よりも1時間早く帰って行った。そっけない態度もいつも通り。
結局、からかっただけ??歩いてく後ろ姿を見送った
試験どうだった??
レジのお金を締めていたら木村君が声をかけてきた。
まぁまぁかなぁ〜・・・
苦笑いしながら私が言うと俺も、この前あったやつ最悪でさ〜・・
なんて笑いながら話しだす
木村君は私にいろんな話を聞かせてくれる。
学校のこと、家族のこと、店であった事件。。。
いつも、楽しそうに話してくる。
その話の中で、登場人物は大抵、近藤がいて、彼女は出てこない。
だから尚更気になった。
あの時近藤が言ったことが
あのさ、
そう言って横を見ると思いっきり目が合った。
木村君彼女いるの?
訊いたら、私の小さな幸せが消えてしまいそうで言えなかった。
口を開けたまま私が動かなくなったから、木村君も動きを止めて私を見てた。
ハハッ・・・何訊くか忘れちゃった・・・
笑ってごまかす私を木村君は不思議そうに見てた。
それ以上、訊いてこないところが木村君らしい。
耳まで赤くなってる気がして、私は、急いでレジを締めて、階段の方へ歩いて行った。
うわぁ!!
思わず大きな声が出たから慌てて口を塞いだ。
階段の所で近藤が冷めた顔をして私を見ていた。
何してんの、こんなとこで!!
うろたえた私をよそに、近藤は表情を変えず
邪魔かと思って
と呟く。
あのねぇ!
そう言いかけた私に近藤はノートを差し出した。
何よ?
涙に渡してて
そう言うと近藤は歩いていく。
そっけない態度に、私はそのまま近藤が歩いて行くのを見ていると、近藤は振り返り笑った。
頑張れよ、誠。
タンタンと軽やかに、階段を降りながら、近藤は帰って行った。
どうしてそんなことを言ったのかということより、
どうして笑って言ったのか私はしばらくそこから動けずにいました。