第2話 帰り道
平日は7時から10時まで私は働く。この季節は夜風が冷たい。マフラーを顔にまで巻いて、空を見上げる綺麗な三日月が、その日は見えた。
ニャーと可愛らしく足元から聞こえて足を止める。
茶色のめつきが鋭い猫が、私を見上げていた。
首もとの鈴が、チリン、チリンと揺れてる。
飼い猫らしい・・・
腰を落として、頭をなでると、可愛らしく泣いてくれた。フフッと思わず笑ってしまう。
「誠!」
突然の大声。驚き顔を上げる。にゃんこは、足早に逃げて行った。
あーあー・・・・
ため息混じりに立ち上がる
「何よ。何かあった?」
少しふてくされて私が言うと、相変わらずの無表情な顔が近付いて来た。
近藤はやって来ると、後ろを振り返る。
見ると木村君が笑って手を振っていた。
「今日は遅かったから、送ってやれって、うるさくてさ、あいつ」
思わずペコっとお辞儀をしてしまう。
木村君は、そういう人なんだ。
「俺は、大丈夫だって言ったんだけどな」
近藤は、こういう奴・・・
「行こうぜ。寒いし」
足早に歩いて行く。木村君に手を振る。
彼が私のものになりますように・・。なんて思わないから、誰のものにもなりませんように・・
笑顔を見る度、そう思ってた。
近藤は私にかまうことなくスタスタ歩いてた。
同じバイトの子は、格好いいと話してたけど、木村君に比べたら、どこがいいのかと、後ろ姿を見ながら思った。
「お前さ」
突然立ち止まると、近藤は振り返った。
「お前、涙のこと好きだろ?」
恋愛話なんて絶対興味ないだろう人間が、そう言うと驚くというより、何故そんなことを訊くのかと、疑問を抱く。のは、私だけだろうか??
キョトンとしたままいた私を近藤は、じっと見てた。
「突然、何よ」
「いや、確認」
「はぁ?」
声が上がる。
「お前は、幸せそうでいいよな」
近藤はそう言うと、またスタスタ歩いて行った。
何だろう。
「確認って何よ!」
追い付いて横に並ぶと、近藤はいつもの顔で言った。
「涙なら諦めろよ。好きな奴いるから」
「え!」
驚いた私に、近藤は指をさして顔を近付けた。
「ほらな。お前、好きなんだろ」
ハハッと馬鹿にしたように近藤は笑い、歩いてく。
バイト以外でこうして話すことはなかった。
どうして突然そんな話をしたのか分からなかったし、それが冗談かどうか何故か聞けなかった。