第1話 私の好きな人
短大1年夏休み、近所の本屋でバイトを始めて、もうすぐ3ヶ月。最近の私のバイトでの日課は、シフト表を見ること。そして、密かに微笑むことでした。
私の小さな幸せは、本屋の息子で同じバイト仲間の、木村涙に会うこと。彼は大学1年で、とても優しく、爽やかな笑顔に、私は一瞬で落ちました。彼女はいないらしいけど、きっとすぐに出来るんだろうなぁ・・。そう思うと憂鬱になるから、今を必死で楽しむ私。その時までは
それは11月後半、少し寒くなってきた頃。いつものようにシフト見て、彼がいることを確認。鼻歌まじりに階段を駆け上がり、レジを見る。
「佐藤!こっち」
レジから声がかかる。手をあげて、私を呼ぶ彼は、今日もアイドル並の爽やかさだ。私は足早にレジに向かう。
「お疲れさま。今日は空いてるね」
自然と笑顔になる。
「だろ?暇すぎてさ、郁なんて立ち読みしてんだよ、全く・・・」
ため息混じりに木村君は言った。サラサラな髪が触って欲しそうに、私の前を通りすぎて行く。
「おい!郁。お前いつまでさぼる気?」
レジから少し離れた雑誌が置いてある棚から、頭だけ覗いてた。
木村君の言葉に、頭が動く
「さぼってねーよ。整理してんの」
少し低い声でそう言うと、顔を出す。
「佐藤、お前そんなとこいないで、掃除でもしろよ」
眉間に皺を寄せ、鋭い目で私を見た。
「さぼってるあんたに言われたくないんだけど」
私はそう呟くと、レジを出て、その頭を見ながら近付く。木村君とは正反対の男がそこにいる。
短髪の黒髪をガシガシかいて、制服のシャツも長袖をまくりあげ、サッカー雑誌を読んでいた。彼の名は、近藤郁。木村君と高校が一緒で、大学まで同じ。私達3人は、同じ年ということで仲も良く、店長がシフトを同じ日になるように考えてくれてるらしい。なんていい人!私はそう思う。
「店の人間が立ち読みなんて何考えてんの?」
「お前こそ、涙の前だとデレデレして気持ち悪いって苦情くるぞ」
無表情な横顔で彼は言う。そんな私達の会話を見ながら、木村君が笑って見ている。私達はいつもこんな感じだった。だから私は、優しい木村君と、ぶっきらぼうな近藤と三人で過ごすバイトの時間が永遠に続きますようにって、いつも神様に祈っていました。