プロローグ
むかしむかし、この皇国の北に、深き黒森があった。
そこには、異形と異能がうごめき、
人にあらざるものどもがひそみ、
愚かな魔女がその中心に立ち、
人の子を惑わすという噂が絶えなんだ。
皇国は長らくその森を危険と見なし、
民を守るためにも、土地を広げるためにも、
これを清めねばならぬと考えた。
そこで選ばれたのは、一人の正しき騎士である。
彼は幼きころより皇国の教えを尊び、
邪を憎み、
正義を愛し、
己の心を曇らせることなく成長した。
彼には天より授かりし力があった。
――**「己が悪と定めたものを討ち滅ぼす」**という力である。
皇国はこれを天意と呼び、
騎士こそが浄化の担い手だと定めた。
騎士は軍を率いて黒森へ向かった。
森は異臭と影に満ち、
獣の目をした者らが木々の奥より覗いていた。
エルフもドワーフも、見たこともない亜人もいた。
いずれも人の理を知らぬ、獣の群れであった。
その中央に、白き少女がひっそりと佇んでいた。
年の定まらぬ顔を持ち、
不老の肉体を持ち、
異形どもに崇められる魔女である。
少女は騎士を見ても怯まず、
あろうことか言葉を投げかけたという。
「あなたは、ただあなたであればいい」
だが、騎士は惑わされなかった。
魔女の声は人を狂わせる毒である。
その微笑みは人を沈める沼である。
異形どもが彼女を守るように立ちはだかったとき、騎士は確信した。
――これは悪である、と。
騎士の力は真に目覚め、
彼の正義は光となり、
異形どもを次々と薙ぎ払った。
魔女は不死であったが、
騎士の剣はその不浄をも断ち切った。
魔女は倒れ、
異形どもは指揮を失い、
森は潔く沈黙した。
こうして北の脅威は払われ、
皇国は新たな大地を得、
民は安心して暮らせるようになった。
騎士は皇国へ戻り、
**「獣殺しの英雄」**として讃えられた。
皇帝はその功をほめ、
この物語を後の世まで語り継ぐよう命じた。
さあ、息子よ。
よく覚えておきなさい。
正しき者が悪を討つとき、
世界は安らぎを得るのだ。
おまえもいずれ、
この国を守る正しき皇子となるだろう。
――これは、皇国が誇る英雄のお話である。




