終話 二人の戦いは今はじまったばかり
玉座の間には光が降り注いでいた。
大理石の床は冷たく長い赤の絨毯が玉座へと続いている。
王都にてーーマルクスとアシュリーは国王アルザスの元に急ぎ事の顛末を報告しに来ていた。
アルザスは、沈黙し二人を見据えていた。
その眼差しには安堵、厳しさ、心配…様々な想いが垣間見えた。
やがて、アルザスの声が広間に重く響いた。
「……マルクス・ヴァルトリア辺境伯。
そしてその妻、アシュリー」
二人が同時に深く頭を垂れる。
「夫婦揃ってよくぞ戻った。だが――国の闇はまだ払われてはおらぬ」
厳かな言葉が落ちる。
「我が国は聖女の名を冠しながらその力を悪意持って利用し、民にまで行使する者を野放しにはしない。聖女ルーチェはすでに人の理を踏み越えた。
この国の威信を持って、国の安寧を脅かす存在を……討たねばならぬ」
広間の空気が一段と張り詰める。
王は玉座の上から勅命を告げた。
「王命を以て命ず。
マルクス・ヴァルトリア王太子兼辺境伯、アシュリー王太子妃――聖女ルーチェの討伐を」
アシュリーは一瞬だけ瞳を閉じ、震える呼吸を整えた。
――血を分けた妹。同じ前世を知る転生者。
似ている立場の二人。けれども一方は今、もはや国を滅ぼしかねない脅威となってしまった。
彼女は静かにはっきりと答えた。
「……御身御心のままに。私の命を賭してお受けします」
マルクスもまた玉座を仰いだ。
「ヴァルトリアの剣と私の命を賭して、勅命謹んで承りました」
二人は強く前を見据え、宣誓した。
◆
アルザスは深く眉間に皺を寄せ、しばし沈黙した。やがて、わずかに笑みを浮かべる。
「……マルクス。心配したぞ」
その声には、兄としての慈愛が滲んでいた。
「忘れるな。お前たちは決して孤独ではない。
辺境の地も、王都の民も、そして私も……常にその背に立っているのだから」
光が大理石に反射し玉座を照らした。
その輝きは、二人を導く灯火のようだった。
――こうして、国王の勅命の下。
マルクスとアシュリーの次なる戦いが幕を開けた。
二章でした。お読みいただきありがとうございます。これから(もしかしたら外伝を挟みつつ)三章を書こうと思っています。
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