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終話 私は貴方のために、私は君のために、生きよう

 春の王都の大通り、祝福の民で埋め尽くされていた。教会の鐘が鳴り響き、街中の窓から花びらが舞い落ち、国旗が風に一斉に翻る。


「王太子殿下、その妃に万歳!」


 王都で行われる二人の結婚式は元聖女と元王太子の流刑という暗いニュースを覆い隠すように盛大に行われることとなった。


 祝福の声と手を振る民の波が押し寄せる中、行列の先頭に現れたのは――二匹の銀狼。

 雪のような毛並みを光に輝かせ、二匹は背に王太子となったマルクスと王太子妃アシュリーをそれぞれ乗せて進む。


 威厳を振り撒きつつ、時折アシュリーを見返り、尾をふわりふわりと揺らす。


 その仕草の可愛さに民たちは一瞬戸惑った。


「ま、魔物……?」

「でも……尻尾振ってる?」

「……なんか、可愛い……?」


 ざわめきが広がる。


「アシュリー、君の案は最高だね」

 珍しくマルクスの声が大きく弾んだ。アシュリーは照れて俯く。

「…皆さんが受け入れてくださってよかったです」


 アシュリーの発案で、辺境伯と王都の移動をこれから竜と銀狼と共に行っていく事になった。魔物との共生の第一歩として。


そして今日はーー介添人のような役割を担っている。


ふん、と銀狼は鼻を鳴らし、顎を上げてアピールしていた。



 王太子マルクスと王太子妃アシュリーが聖堂へ向かうために通る道。頭上の窓の全てから桃色の花びらの雨が降り注いでいる。


 広場に差し掛かると、子どもたちが「お姫様、おめでとうございます!」と声を合わせ、小さな花束を差し出す。

 マルクスの乗った銀狼はその手から器用に花束を咥え、アシュリーへと差し出した。


 アシュリーは少し驚き、そして、ふわりと優しく笑ってその花を受け取った。


「……ありがとうございます」

 小さな声。だが、群衆に確かに届いた。


 アシュリーはおもむろに手を空に向かって翳し、王都中の空から幻の雪を降らせた。雪は春の陽射しの中、キラキラと輝いて振っていく。


「簡単な幻影魔法ですが…」

 アシュリーは照れたように笑った。

 隣でマルクスが相変わらずアシュリーの無自覚さに笑う。


「わぁっ…!きれい!」

 子供たちが喜んで飛び回る。


「妃殿下が雪を……」

「……雪、初めて見た……」

「辺境の姫君…万歳!」

「…王太子妃殿下に栄光を!」


 初めて雪を見た人々の地鳴りのような歓声が王都を揺らした。



 聖堂で誓いを交わした二人が出てくると、待っていた竜が翼を大きく広げ、澄んだ声を響かせる。

 

頭を下げ、嬉しそうにアシュリーへと鼻先を寄せる仕草は――神聖なもののようだった。


 アシュリーがそっと手を伸ばし、竜の額に触れると、竜はまた嬉しそうに喉を鳴らす。

 その神秘的な光景に民たちは息を呑んだ。


「……竜って恐ろしいだけかと……」

「あんなに優しい声を出すのか……」


 銀狼が「うぉん!」と元気よく吠える。それはどこか誇らしげに聞こえた。



 辺境領への凱旋の道のり。

 竜の背に二人が並び、下を大きな銀狼が駆けてゆく。


 アシュリーが振り返って王都の人々に手を振ると、大地が割れるほどの歓声が響いた。

 竜と銀狼と二人の姿は確かに受け入れられていた。


「辺境の銀狼閣下と姫君に栄光あれ!」

「王太子夫妻、万歳!」


 人と魔物が共に歩む未来が、少しだけ輪郭が見えた気がした。



 マルクスとアシュリーの乗る竜の後続。

 もう一匹の竜の背にはケイトとイゴールの姿があった。


「ひぎゃーーっ!やっぱり人間は大地で生きるべきですーー!」

 涙目のまま叫ぶまくっているが、姿勢だけは真っ直ぐなケイト。


 イゴールはにこにこと支えながら言った。

「真顔で叫ぶから余計目立つぞ」

「ひぃっ!落ちるぅぅう!どうして旋回するのですかぁ!」

「竜までもが美しい君を気に入ってるからじゃないか?」

「~~っ!だ、だからっ!そ、そういうことは閨でだけ言ってください!」

「いや、それを言う方がもっと恥ずかしいだろ」


 ケイトは顔を真っ赤にして口を噤み、下を馬で走っている兵たちの笑いを誘った。



 銀狼は尾を振り、竜は翼を広げ、辺境へと戻っていく。通る土地の人々は歓声と驚きの声を重ねていく。

 祝福の渦の中、アシュリーは胸がいっぱいになっていた。


(私が、こんなふうに祝福されるのは、マルクス様のおかげ。全てマルクス様に出会えたあの日からの…)


 瞳が潤み、頬を伝う雫が光を受けて煌めく。


 マルクスは彼女を後ろから強く抱き、低く囁いた。

「……泣かないで。これは、君が努力し続けたからこそ得た祝福だよ。胸を張って受け取るんだ」


 アシュリーは声にならない嗚咽を飲み込み、彼の胸に顔を埋める。

「……はい。でも…マルクス様が……隣にいてくださるからこそ……」


「ああ。…永遠に、君の隣にいるよ」


 王太子と王太子妃、銀狼と竜への歓声が未来へと響く歌声のように行く先々に響き渡っていた。

申し訳ありません。一部が抜けていましたので投稿し直しました…

これで辺境伯マルクスと元悪役令嬢アシュリーの話は一旦終わりを迎えました。

王太子妃になったアシュリーの受難やお約束のヒロインの逆襲などの次回構想は出来ています。また、特に謎多き王弟マルクスの過去、兄との関係なんかは、外伝で触れたいです。

もし気に入ってくださったらブクマや感想をいただけますと励みになります!

ご好評頂けましたらぜひ、続きを書きたいです。

お読みいただきありがとうございました!

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