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第9話 一方その頃、宇宙戦艦の中では……

 夜のニュースの収録を終えたモモ・リインフォースは第二銀河帝国地球統治艦隊母艦〈トトゥーガ〉へと帰還する。

 小型空間遊泳艇〈ガグイユ〉に乗って東京のお台場から上空に空間静止航法を使って浮遊している地球統治の指令母艦へ。

 ラグビーボールのような形状をしている〈ガグイユ〉が巨大な二等辺三角形の銀色に光る戦艦〈トトゥーガ〉の船底に開いたハッチへと入っていく光景を、モモはいつも「タッチダウン……」と心の中で呼んでいた。それは何度も広報としてテレビカメラの前に立ち、地球の文明に積極的に触れてきたモモだからでてくる言葉だろう。

 これから、モモが報告に会う奴らはそんな用語は知らない。

 彼らが知っているのは自分たちの利益と、宇宙の覇権を誰が握るかだけだからだ。


「失礼します」


 スライド式自動ドアが開き、トトゥーガ内の一室へと入る。

 そこは第二銀河帝国地球統治指令室であり、一つの都市ほどの大きさの巨大モニターの前に何列ものコンソールパネル付きの作業机が並んだデスクが連なっている。そして下で作業しているフォーチュン星人を見下ろすようにでっぱっているテラスがあり、そこにはゆったりとした布を巻いただけの衣装。古代ローマ人が着る外衣(トーガ)を纏ったフォーチュン星人がいる。

 男性のフォーチュン星人の証しである黒い肌と二本の角。そしてその男の角は途中で木の枝のように分かれた巨大なモノ。まるで雄々しい鹿のような角を持っていた。


「モモ・リインフォース中尉。地球人に対する強制退去勧告をたった今終了し帰還しました!」


 角の大きさは男性のフォーチュン星人にとって大きければ大きいほど魅力的である証し。その立派な角を持つ男は「うむ」と言うと敬礼するモモに対して頷きかける。


「ごくろうである。リインフォース中尉。貴様の活動のおかげで地球の統治は順調に進んでおる」


 しわがれた老人の声だった。

 モモを見下ろす瞳には優しさが宿っている。


「は! リリド・アドラステア准将殿の〝反抗意志衰弱計画〟の一端を担えて光栄に思っております!」


 〝反抗意思衰弱計画〟とは、地球統治指令リリドが立案した地球を安全に最低限の労力を使って制圧する計画である。最初は友好的にだが徐々に彼らに対する要求を強めていき、人類の逆らう意思をゆっくりと衰弱させる。

 あくまで力押しをせず、高圧的な態度をとらず、友好的な仮面をかぶり、だが相手の動きを制限して支配する。それが一番こちら側の第二銀河帝国側の犠牲が少なくて済む。


「一端などと謙遜はしなくていい。この意志衰弱計画の(かなめ)は貴様だった。貴様が良き顔をして地球人の前に立ってくれていたから、奴らは我々に対して友好的な感情を持ったまま、逆らうこともせずに従順に従ってくれている。おかげで地球人の多くを労働力として確保し、最終段階である〝整地〟まであと一歩となった。おい、〈グンケル〉の点検はちゃんとしているんだろうな?」


 質問はモモに対してじゃない。作戦指令室で電子コンソールを操作している女性のフォーチュン星人に言っている。


「は。大質量踏潰(とうかい)兵器———〈ダングル〉の起動点検は先ほど完了しております」

 オペレーターが返答すると、巨大モニターの画面が切り替わる。

 そこに映っていたのは———巨大な銀の円柱だった。何も付属も装飾もされていない銀の円柱が整備ドックの広い艦内の部屋に置かれ、その周りをフォーチュン星人が取り囲んでいる。

 彼らに比べるとその円柱は余りにも巨大で、十倍ほどサイズが違っていた。


「地球整地の(かなめ)となる〈ダングル〉。万物の究極の安定元素である鉄を強い核力のみで繋ぎ合わせた電子の雲の隙間のない無敵の銀の柱。電子の結びつきにより繋ぎとめている通常物質と違い、全くほころびのないその分子構造はあらゆるものを通さない破壊不可能兵器と化す」

「要は———恐ろしく固い銀のドラム缶という事ですね」

「リインフォース中尉。ドラム缶とは良い例えだ。地球人にはあれは大きなドラム缶にしか見えんだろう。それが転がり全てを踏みつぶし、地球人がでこぼこにした土地を平らにする〝地ならし〟作戦。それが〝地球整地〟である。イビツな大地を複数の〈ダングル〉が潰してならす光景はまさにローリングパラソル(・・・・)!」

「パレイドです。准将。地球人の使っている英語では「行進」のことをパレイドと言います」

「……リインフォース中尉。貴様は地球のことをよく勉強しているようだな」

「恐れいります」


 無表情だが、身じろぎしているリリドは少し恥ずかしそうだった。


「だが、もう〝整地〟が完了したら必要のないものだ。我々第二銀河帝国は〝心理史書〟に従って行動をしている。〝心理史書〟に記載のない地球の文化・文明は保存する価値のない(あくた)だ。そう、先生が(おさ)めた心理歴史学が言っている。地球人類はもうすぐ文明的にも後退する。地球は第二銀河帝国の文化と文明に染まる。地球人本来の文明や文化などは、直ぐに忘れることだな」

「は……!」


 背筋を伸ばして返事をするモモの視線は、床を向いていた。


「あと一週間、あと一週間でようやく私の地球統治の任務が終わる。二十六年……長かった。ここに来る直前に生まれた孫も、もう歩けるぐらいには成長した頃だろう」

「長期の滞在任務。お疲れ様でございました」

「ああ、ようやく孫に〝じいじ〟と言って話すことができる」


 と、リリドが表情をほころばせたその時だった。

 ビービーッと警告音が〈トトゥーガ〉の作戦指令室に鳴り響く。


「何事だ!」

「脱走です! 〈クアヴァーゼ級〉巡洋艦から多数の爆撃機(・・・)が報告もなく発進しています!」

「何だと⁉」


 巨大モニターに映し出されるのは、彼らがいる〈トトゥーガ〉より一回り小さい三角形の宇宙戦艦から、複数のYの字型の航空機が地上へ向けて降りていく光景。


「爆撃機多数……だと⁉ 空襲(・・)でもするつもりか⁉ どこの莫迦者(ばかもの )だ! リインフォース中尉の努力を無駄にするつもりか⁉ そんな阿保(あほう)は、どこの部隊(・・)だ⁉」

「第三爆撃航空団第一大隊です!」

暴走野郎(バーバリアン)部隊か……」


 怒り狂うリリド。


 だが、その背後でモモはニヤリと笑い、後ろ手には光るスマホが握られていた。


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