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第7話 第二銀河帝国からの大事なお知らせ

「はい、お電話ありがとうございます。クリーン&ピュアウォーター、カスタマーセンターの浅井(あざい)でございます……」


 その日は特にいつも通りだった。

 会社に出勤して、二日酔いの痛みをこらえて、毎日行っている業務を機械的に、脳を全く使わずに淡々とこなしながら時間を過ごした。

 やがて休憩時間になり、業務室を出て上の階にある休憩室に行く。

 休憩室は木とマットの香りがする部屋だ。電話や書類で埋め尽くされた業務室と差別化を図るため、一時間の休憩時間中は電話対応のストレスを忘れるためと、杉の木でできたテーブルや椅子。そして柔らかな合成繊維マットが敷き詰められた空間でコンビニで買ってきた近頃は高くなってきたおにぎり二つを食べながら、壁に埋め込まれている65インチのテレビから流れる報道を見つめる。


『第二銀河帝国よりご報告があります』


 国営放送だった。

 スーツを着たサキュバスのような姿をした、モモ・リインフォースが一人。カメラを真正面に見据えて淡々と話し始めた。


『帝国議会で決議し、地球の、特にこの日本国に住む日本国民へ向けて非常に大事な決定をここで報告させていただきます』


 異様な雰囲気だった。

 まず、モモが一人でテレビに出演することはほとんどない。基本的にニュースアナウンサーと共に出る。地球人のコメンテイターと共に出演して、会話をしながら第二銀河帝国の地球統治の方針だったり、決定事項だったりを伝えるやり方をとっていた。その地球人と一緒に、会話方式で第二銀河帝国からの報告をするというのが大事だった。地球人のアナウンサーが「それってこういうことですか?」と地球人にわかりやすくかみ砕いたり、「でもそれって我々にとっては辛いことになりますよね?」と反論してくれたりするからこそ、第二銀河帝国のやり方が一方的だとは感じさせず、こちらの意見を一応は聞いてくれる感を出してくれていた。

 だが、今回は地球人のコメンテイタ―はいない。 

 それはつまり、第二銀河帝国が一方的な勧告をすることを意味していた。


『我々第二銀河帝国は、日本国民の皆さんに対して、本日より一週間以内の〝日本国土からの強制退去〟を勧告させていただきます』


 聞き間違いかと思った。

 だが、同じく休憩をしていた会社の同僚たちも「え? 強制退去って言った?」と耳を疑っている様子だった。

 モモ・リインフォースは淡々と続ける。


『かねてより我々第二銀河帝国はこの地球に大きなリゾート施設と軍事拠点を作ることを計画していました。そして、この二十六年の地質調査を終え、遂にその工事の着手にかかる日が来ました。一週間後の七月五日。現在日本国土に存在する施設、住宅地、道路、そのほかの物を一度平らにする〝整地〟を行います。これは決定事項であり一週間を過ぎても日本国土に残っている方はその〝整地〟に巻き込まれる危険がある事をご理解ください』


 段々と血の気が引いてくるのがわかる。

 これは本気で言っている。本当に、俺達日本人を日本から退去させようとしているのだと。

 だが、それを勧告されたところで、伝えられたところで俺達日本人はどうすればいいというのか? 日本以外の何処に行けばいいのか? 日本以外に日本語が使える国はないというのに。

 休憩室の同僚たちも「ハッタリだろ?」「宇宙人の人たちがそこまでするメリットあるか?」「いや急~。そんなんいきなり言われても困りまんがな~ハハッ」と事態の深刻さを飲み込めない……いや、飲み込もうとしないリアクションをとっていた。

 じんわりと、心が絶望に侵食されていく。

 そして無情にもモモのアナウンスは続く。


『突然の強制退去勧告で戸惑っているとは思われますが、ご安心ください。移住先はちゃんと用意してあります。その日本人居住区は4つ、オーストラリア内陸部。アフリカ中部。アジア大陸極北。南極。以上の四つの地区にマイナンバーごとに振り分けられ、そこで永続的に居住していただきます』


「そんなの……強制居住区(ゲットー)じゃないか!」


 同僚の一人が声を上げる。

 ゲットーとは、第二次世界大戦の時かの悪名高いドイツのナチ党が、虐殺をしたユダヤ人を隔離した地区、場所のことをいう。

 それを連想させる今回の第二銀河帝国の決定に憤慨をした彼だったが、隣にいる女性の同僚に「ゲットーって何? 難しいこといきなり言わないでよ。それにまぁ仕方がないじゃん? 宇宙人には勝てないし。それに支配されてるのにこれまでそんなにひどい目に合わなかったし、どうせこれからもひどい目には合わないよ。大丈夫」と、たしなめられていた。


『日本国民の皆様には大変なご迷惑をおかけしますが、ご理解のほどを宜しくお願いいたします』


 モモ・リインフォースは頭を下げることも、表情を崩すこともなく、淡々と報告を終えた。

 そして、放送が終わると同時にスマホにピコンと通知が来た。


【浅井ハル様:あなたはノーザンテリトリー日本人居住区への移住が決定しました。ウルル空港直通のチケットを本日中にご自宅に送付させていただきますので、7月5日までに日本本土からノーザンテリトリーまで移動をお願いいたします】


 どこだよ……ノーザンテリトリーとか、ウルルとか……。


 調べたらノーザンテリトリーはオーストラリアの北部の〝州〟。

 ウルルは〝エアーズロック〟のこと。観光名所で有名な地球のへその現地の呼び名の事だった。


 つまりは———俺はオーストラリアへ割り振られ、あの荒野への永続的な移住を、銀河帝国から勧告されたと言う事だ。

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