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第6話 深酒

 アリアと別れた後、俺は酒を飲んでアニメを見た。

 小学校ごろにやっていたボーイミーツガールのロボットものだった。当時流行っていた世界が滅んだあとの秩序がなくなった世界の、終末もの(ポストアポカリプス)の一つで、盗賊をやっていた少年が未来予知ができる超能力少女と出会って、彼女を助けるために超兵器をつんだロボットに乗って悪と戦っていくというストーリー。俺はこういうやつが大好きだった。ボーイミーツガール冒険ものとでもいうのか。何でもないどこにでもいる少年が美少女と出会って冒険して、やがて世界を変えていく。

 俺にもそんな時があればいいなぁ……とあの時は思っていた。

 そして、実際その時が来た。

 小学校三年生の夏のことだった。念願のその時が来たが、タイミングが悪かった。当時は非常に俺はひねくれていて、ませていて、そういうアニメみたいな。自分が特別な存在だと言われることが恥ずかしい事だと思っていた。

 だから、断った。

 天使のような美少女と巨大なロボットに乗って、悪と戦うチャンスがあったのに、俺は断った。

 それも———二回も。


「まだ、第二銀河帝国人が悪だってわかんねぇし……」


 なんて言い訳しながらも。

 コンビニで買ってきた発泡酒をグイっとのみ、酒の肴に買ってきたピーナッツをポイッと口の中に放り込む。


「本当の悪が、アニメみたいにわかりやすい悪だったら良かったんだけどな……」


 テレビの画面の中では悪役が『フッフッフ、今日こそあの少女を手に入れてその予知能力で世界を支配してくれるわ』と悪そーな顔で、怪獣のようなメカを持ち出して街を破壊し始めた。第二銀河帝国人(あいつら)がこんなんだったら、俺は戦おうと思ったのに……。


「いや、あいつらも最初はこんなんだったか……」


 ———この太陽系第三惑星地球を我々の支配下に置き、貴族のリゾート地とする。


 俺達が初めて見た、1999年の第二銀河帝国人の立体映像によるスピーチは、わかりやすい私利私欲にまみれた地球人を完全に見下しているザ・悪といった内容だった。

 それを聞いておきながら、俺は別に戦おうとは思わなかった。

 思えなかった。

 俺が戦おうなんて思えなかった。


 そうか———俺はなんだかんだで、ビビっていたのだ。


 死ぬのが、怖かったんだ……。


『くそぉ‼ やらせるか! やらせるもんか! ルリを連れていかせたりなんか、』

 フ…………ッ!


 画面が暗転し、音声が消えた。

 そして、画面に読み込み中を表すグルグルと回る輪が現れると、その今まで見ていたアニメタイトルが表示された、話数選択画面が表示される。

 サブスクだ。

 俺のテレビはネットにつながるタイプの最新式のテレビで、動画サブスクサービスと契約し、月二千円でアニメが見放題で見れる。そのサイトを使ってアニメを見ながら酒を飲むのが好きだった。

 それで今日は昔好きだったむか~しアニメを見る気分だったのだが、気分が変わった。

 テレビリモコンを操作して、昔の90年代のアニメからカテゴリーを2010年代のアニメに切り替える。

 そして、あるアニメタイトルを再生する。

 何でもない女子高生たちの日常を描く、日常系のアニメタイトルを。


「そういえば、宇宙人たちがやってきてからアニメってこういう奴ばっかりになったよな……」


 まぁいいか。

 これもこれで面白くて楽しいから。

 そうやって俺はその後ひたすらバトルもない、恋愛もない、刺激がない。ただただかわいい女の子たちが青春を送っているだけの日常系のアニメを見続け、「俺にもこんな時代があったなぁ」と昔を懐かしんで時間を浪費した。


 そして———寝た。


◆  ◆   ◆


「うぅ~ん……昨日は飲み過ぎたな……」


 翌日、二日酔い気味の痛む頭を押さえて外へ出る。

 ネクタイを締めてスーツを着て、ただ引きこもってひたすら電話対応する業務で社外の人間から姿を見られることなんてないのに、規則だから、正社員だからの一点張りでこの格好をさせられる。社会人の本当に辛いところだ。

 そんな辛い格好をしなければいけないとわかっていながら、時田さんと飲んでその後アニメを見ながら深酒をしたのはまずかった。

 すっかり二日酔い状態で出社することになってしまった。


「あ~、会社行く途中でウコン買って行こ……つーか、今日は、」


 そんなことよりも———気になることがある。


「宇宙人の艦隊、近いな……」


 第二銀河帝国人の艦隊が、俺達の街の頭上にいくつも停滞していた。

 それも位置が低い。上空150メートルほどで浮遊し続け、街に巨大な影を落としている。


「なんか……やるのかな……」


 日本政府と、会議か何か……。


 ———その予想は、大きく外れた。


 その日、遂に俺は、俺達はツケを払わされることになる。

 そうなることを、この時点ではまだ知らなかった。

 あの日、びびって怖がって戦わずになあなあに過ごしてきた日常のツケを払わされることになることなど、この時点ではまだ知る由もなかった————。

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