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第3話 時田さんと居酒屋で

『私たちがこの地球に来てからの二十六年で世界各国の財政状況は格段に良くなりました。以前は戦争抑止力となっていた核兵器も、我々第二銀河帝国相手には無力。そしてそれが最強の武器でないとわかれば世界各国は核兵器を持つ理由はありません。元々核兵器はそれを維持することだけでコストがかかりました。我々がこの地球に来る以前はアメリカを始め世界各国が戦力を維持するために膨らむ軍事予算に頭を悩ませ、核兵器を長期的に維持できるほどの財源などどの国もなく、ひたすら国債を発行して借金をしていました。ですが、第二銀河帝国という強大過ぎる敵を前にはもはや軍事力を維持する必要はなくなりました。無駄だからです。結果、国家の財政を圧迫する軍事費を全て生産に回すことができて国家財政が健全化。膨らんだ国債による借金も極限まで縮小されました。傲慢な言い方ではありますが、我々、第二銀河帝国が新たな抑止力となったおかげで世界は恒久的な平和を手にしたのです。核の傘ならぬ、銀河帝国の傘によって———』


 居酒屋のテレビ画面にはニュース映像が映っている。

 そこには近年の世界情勢に対するコメンテイターとしてフォーチュン星人のモモ・リインフォースが呼ばれていた。今回はフォーマルな場であるので露出度の高い格好は控え、女性用のスーツ姿で出演している。


「なあにが恒久的な平和ですか! だったら何で俺たちの給料は上がらないんだって話ですよ! ねぇ、浅井(あざい)さん!」

「え、えぇ……」


 ビールジョッキを握りしめた赤い顔の時田がテレビ画面のモモに文句を言っている。


「世界が余計なことにお金をつかわなくなって平和になったのなら、貿易とかしやすくなって経済が回って、国の収入が増える。そしたら景気が良くなって俺たちの収入も上がっているはずじゃないですか! ねぇ、浅井さん!」

「は、はぁ……そうですね……」

「それでも増えていないってことは、どっかで横取りしてるんですよ。中抜きしているんですよ! あいつら宇宙人が! じゃないと俺たちの給料はとっくに上がっていておかしくないじゃないですか! ねぇ、浅井さん!」

「時田さん。飲みすぎですよ……それに時田さん、モモ・リインフォース嬢のファンなんじゃないんですか? そんな声をデカくして否定するような……」

「それはそれ! これはこれですよ! 第一俺はモモ・リインフォース嬢はエッチな格好をしてくれるから好きなだけであって宇宙人は基本的に嫌いなんですよ! あの悪魔みたいな姿、見ましたぁ?」

「そりゃあ、子供の頃はテレビでフォーチュン星人と当時の小笠原首相の会談は何度もテレビで報道されましたから。でも男性と女性でああも違うものなんですね」


 俺はテレビでつらつらとコメントを並び立てているモモ・リインフォースを見る。彼女ははっきり言ってしまえば人間がコスプレしたような姿にしか見えない。だが、1999年の7月にテレビに映っていたフォーチュン星人は真っ黒な肌で筋骨隆々の肉体を惜しげもなく披露した上半身裸の、宗教画とかに書かれていそうなまさしく悪魔といった風体をしていた。

 その違いは男女の違いだと奴らから説明をされたが、それでも全く種族が違うのではないかと思うほど外見には差違があった。


「そこが俺が嫌いなポイントなんですよ。恐らくライオンとかカブトムシみたいに男女の姿が全く違う種族の知的生命体バージョンなんだろうですけど、それならもっと小さな違いであれ! っていうんですよ。そもそもオスメスで姿が違う生き物っていうのは基本的にオスがメスを誘惑するために派手に外見を取り繕うもので……って聞いてますか! 浅井さん!」


 よそ見をしていた俺の肩を、時田さんがバシッと叩く。


「あ、すいません。ちょっとサイレンの音が聞こえたもんですから」

「嘘を言わないでください! 全然聞こえませんでしたよ!」

「い、いや……すいません……」

「……何の話でしたっけ……あ、そうだ! つまりはセックスですよ! セックスアピールの話なんですよ! あんだけ姿が違うのは、あの悪魔みたいなフォーチュン星人はあの黒い肌と角が男性としての魅力を引き立てるアピールポイントだと思っているんですよ! そんなセックスのために進化するような種族なんて知的だとはとても思えない。そんな野性的で文化的でない生命体に支配されている現状が俺は悲しくて悲しくて……あ、そういえばセックスで思い出したんですけど、今期のアニメのマシロ・シンフォニーちゃん。エッチでしたね」


 急に話題が変わった。 


「わかります」


 だが、こう言うところが俺が時田さんを好きなところだった。宇宙人に対するヘイトスピーチをするのは困った人だが、その途中で前後の脈略をすっ飛ばして、あっさりと話題を別の方向へ切り替える。


「いやあ~浅井さんもわかりますか。やっぱりちょっと儚げなのがいいんですよねぇ~。そういうアニメキャラ、俺大好きなんですよ~」

「そうなんですか? 俺時田さんはツンデレ好きだと思ってましたけど?」

「クーデレの方が好きなんですよ。浅井さんって昔のあのアニメだと青髪の子と赤髪の子。どっち派でしたっけ?」


 そんな馬鹿な話をひたすら居酒屋で繰り広げる。

 この時間帯が俺は好きだった。

 例え金がなくても、例え宇宙人に支配されていても。

 こんな馬鹿みたいな時間はどんな世界でもあるものだと知った。

 そして、ひたすら今期のアニメのおすすめとどんな女の子がタイプなのか(アニメキャラの話)を語り合った後、店を出た。

 それから上機嫌の時田さんと別れ、電車に乗って三駅揺られて自宅のアパートがある笹塚という街までやって来る。

 東京の中ではそこそこ家賃が安い学生街。

 新宿程大きなビルがそびえ立っていて夜も眠らないほどキラキラと輝いている街ではないが、古き良き下町商店街と駅前の開発されたショッピングモールが並び立つ、風情のあるにぎやかさが感じられる街だ。

 酒が回った頭で若干ポーっとしながらも、はっきりとした足取りで駅から徒歩十分の自宅まで歩いていく。


 ルウ~~~~~! ルウ~~~~~~!


 サイレンの音が遠くで聞こえる。


「やっぱり、サイレン鳴っているじゃないか」


 時田さんと飲んでいた時に、俺が聞こえたと言ったのは嘘ではなかった。だが、パトカーや救急車とは違う、人の声のような変わった音色。

 それに横からではなく———()から聞こえてきていた。

 つまりは、サイレンを鳴らしている音源は、道路を走る車ではなく、空を飛んでいる〝モノ〟だということだ。

 ……まぁ、だが具体的な指示もないし、何かしらの危険物が見えたわけでもない。

 俺達地球人が気を付けなければいけないのなら、先ほど居酒屋のテレビでモモ・リインフォース嬢が何かしらの説明をしているだろう。 


「俺には関係ない話だ……」


 もうすぐ自宅が見える。そんな家まで間近に迫った通りの角を曲がる。


 その瞬間———視界に巨大な人影が見えた。


 いや———機影が見えた。

 

 それは黒鉄の巨人だった。


 俺の自宅の前で直立していた。


 そして———そのスーパーロボット〈ガンフィスト〉の前には真っ白な天使の翼を生やした少女が一人。


「お久しぶりです。浅井ハル様」


 アリア・アテリアル。


 二十六年前と変わらない姿で、彼女はそこにいた。


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