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領主の責務(4)

 夜の騒動は収束を迎えた。ダリルが入れ替わった衛兵も無事だったと言うし、私以外に怪我人もいない。犯人が連行された後、私は焚き火の近くに腰を下ろした。

 夜風が頬を撫でるが、炎のぬくもりがわずかに安堵をもたらす。オリバーが皆に温かい飲み物を差し出し、私はありがたくそれを受け取った。


「思ったより喉が痛むわね」


軽口を叩くとライルが呆れたようにため息をつく。それから神妙な顔になり、オリバーと共に私へ頭を下げた。


「悪かったな、ロゼリア様。守るっつったのに怪我させちまって」

「僕達の力不足です。申し訳ございません」

「……良いのよ、気にしないで。私も無茶を言ったと反省しているの」


 スクロールさえ用意して、後はライルとオリバーに任せても良かった。そうすれば私が人質に取られるようなことはなく、もっとスムーズに犯人を確保できたはずだ。自分が動かなければと焦るばかりで、最善の選択肢を取れなかったのは領主としての私の失敗。彼らを責めるつもりはない。


 その様子を見ていたシグベルが、眉をひそめながら口を開いた。


「それは無謀と言うのですよ。未熟もいいところです」

「……分かってます」

 

 ここまで棘のあることを言われるのは初めてだ。返す言葉もない。揺らめく火を見ながら、私は借りたままだった上着を引き寄せた。香を焚いているのか男性の物とは思えない良い匂いがする。


 シグベルの言葉は正しい。私はまだ、未熟な領主だ。なったばかりだから仕方ないなんて言い訳など、都市に住む人間には通じない。一日でも早く、贖罪都市に相応しい領主にならなければいけないのだ。


「あなたの運命は、まだ終わるべきではない」


 ……それは慰めなのだろうか。少し悩んだが、ここで見捨てるつもりはないという意味だと受け取ることにした。前向きに受け止めることにして、私はカップの中身を飲み干す。


 今日は流石に疲れてしまった。それでも明日が来れば、領主としての仕事を果たさなくてはいけない。このわずかな休憩を糧に、私は上着とカップをそれぞれに返して屋敷へ帰ることにした。


「ロゼリア様。……これから俺達衛兵は、あなたに誠心誠意仕えることを誓います」

「何時でも力になりますので、僕達を頼ってくださいね」


 そんな、何よりも嬉しい言葉を受け取って。


――――――――――――――――


 翌朝、夜の緊張が嘘のように晴れ渡った空が広がっていた。新しい一日の始まりだ。


 早速事情聴取が行われ、ダリルには相応の罰が下された。彼の事情は同情の余地があったが、衛兵という立場を利用して倉庫の物品を盗むという罪を犯した以上許すことはできない。とはいえ、ただ罰するだけでなく、再発防止のために衛兵の待遇や管理体制の見直しを命じた。衛兵の家族に気を配ることを重点に置いたが、特に不満の声は上がらなかった。


 それでもまだ、ダリルがスクロールを売ったという謎の商人の件が残っている。スクロールが流れた先も調べなくてはならない。ライルやオリバーを通じてある程度衛兵に任せられるようになったのは、今回の事件で得た大きな成果だろう。最初は私を軽んじていた衛兵達も、今日は気合の入った敬礼で見送ってくれる。


「これからもよろしくお願いしますね、ライル衛兵長、オリバー副長」

「人使い荒いのは勘弁だぜ、ロゼリア様」

「ほどほどにお願いします……って冗談ですよ。精一杯、やらせていただきます」


 二人の返事に私は微笑みを返した。まだまだ課題はあるが、彼らが味方でいてくれるならこれまでよりずっとやりやすくなる。私は深く息を吸い込み、晴れ渡った空を仰いだ。贖罪都市の領主として、まだやるべきことは山積みだ。だが、頼れる仲間ができたのだから、この街をより良くするための一歩を踏み出せるはず。


 新しい風が吹く――そんな予感とともに、私は自らの歩みを再び進めることにした。

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