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3.村人と会話をすることでイベントが発生するぞ(2)

 おっっっっっっっも!

 重!!!!!!!!!

 飲んでたお茶吐くところだったわ!!!!


 なるほど、だから村の人たちの目が厳しかったのね!

 私と同じくらいの年頃の子がなくなったばかりで、新しく来たのが見るからに健康な私。比較して、『なんであの子が死んでこんな奴がぬくぬく生きてんだ』って感じだったのね!


 いやー、私も王都ではかなりきつい立場だったけど、病気や栄養面で不自由したことはないからなんとも言えないや。子供の声が聞こえなかったのもそういうことね。

 うーむ、うっすら予想していたとはいえ、実際に聞かされるとくるものがある。一緒に話を聞いていたヘレナと護衛二人も青ざめてるよ。


「……最後の病人が亡くなったその日の夜、村のみんなは誰ともなく領主の屋敷に向かっていった。決起と言えるようなものではなく、誰かが音頭を取ったわけでもない。もしかしたら、みんなマーカス閣下に会ってどうしたいのかすらわかっていなかったのかもしれない」


 それでも、そうせずにはいられなかった。

 主導者もなく、統率もなく、ここに至るまで耐えるしかできなかった決断力のない村人たちが、立ち上がらずにはいられなかった。


 それだけ、村は大きなものを失ってしまったのだ。

 そして前領主は、その事実にさえ誠実に応えようとはしなかった。


「これは僕も後から聞いたことだけどね、村のみんなは、結局閣下には会えなかったらしい。屋敷についたときにはすでに閣下たちは馬車に乗り込んでいて、残った護衛兵たちも逃げるところだったんだって。……恨みを買っている自覚は持っていらしたようだからね。あの方には、迫る村人たちが怖くて仕方なかったんだろう。だから――」


 尻尾を巻いて逃げ出した、と。

 そこから先は、村人の話に聞き耳を立てていたのでもう知っている。

 まあ典型的な小悪党らしい末路だ。やっていることはとても『小』とは言えないけど。


「倉に火をつけて」


 いや知らん話が出た。

 待って。


「今年の収穫を全部燃やして」


 待って???


「最後に橋を落として、村を全滅させようとしたんだろうなあ……」

「悪魔じゃない!!!!」


 小悪党の所業じゃないんよそれ。

 食料を燃やして閉じ込めるって、蟲毒かなんかする気でいらっしゃる?

 それで呪われるの、ぜったい前領主自身でしょ。


「村から橋までは馬の足でも二日くらいかかるから、殿下とはきっと入れ違いになってしまわれたんでしょうね。こんな状況で、本当にお気の毒です……」


 おっ、はじめての同情が出た。

 お気の毒どころではないけども。


 前領主、この日に私が来ること知っていたはずなのにな。

 あの腹の立つ結婚の話だって、前向きに進めていたらしいことは知っている。話がまとまってから定期的に花が送られてくるようになったし。領内でとれた珍しい花です、とか言っていたけど、持ってきたのは南方の商人だったし、花も暖かい地域で咲くやつだったし、あの男あらゆるところで嘘をついて生きてるなあ。


「追手が来るのがそれほど怖かったのか、それとも失敗をまるごとなかったことにしたいのか。余計なことを言われる前にぜんぶ雪に埋もれてしまえば、閣下にはありがたいでしょうから」


 あーなるほどなるほど。

 隣領に逃げるような事態となると、国も調査に乗り出すかもしれない。それで村人が生き残っていたら、間違いなく領主に不利な発言をするからね。

 余計なことを言われる前に始末しようと。『ぼくはわるくないのにみんないうことをきかなかったから!』ってことにしたいわけね。

 うーん、最低。清々しいくらいの悪党である。


「閣下が連れてきた者たちも、ほとんど全員が閣下と逃げて行きました。……結局、今も村に残っているのは僕だけです」


 ふっ、とどこか寂しげに笑うと、彼はゆっくりと首を振った。

 それからため息を一つ吐き、再び私に視線を向ける。


「こうなったのも、きっとなにかの縁なのでしょう。僕の力で村の役に立てるなら、できるだけのことはするつもりです。……ただ」


 ただ。そう言って、彼は表情を引き締めた。口を結び、背筋を伸ばし、たぶん手は握りしめられている。


「僕は、僕の力不足を理解しています。僕ではこの村はまとめられない」


 私を見つめる目は真剣そのものだ。小さな私を見下ろすでもなく、見下すでもなく、まっすぐに射抜いている。

 そのまま目を逸らすこともなく、彼は口を開く。切実なくらいに、本気の声で。


「だから、お願いがあるんです。殿下のその思い切りの良さと、堂々とした態度を見込んで」

「……」

「難しいことはしていただかなくても大丈夫です。村の人たちも僕が説得します。必要なことは全部僕が考えますし、なにかあればすぐに相談に乗ります。僕の全身全霊で、お支えしますから――」

「…………」


 ひと呼吸。

 彼は震える緊張を声に込め、こう言った。


「だから、僕に代わって村を治めてほしいんです」




 ……………………………………。


「殿下、殿下、願ってもないお話ですよ!」


 耳元には、ヘレナの興奮気味な声が響いていた。


「まさか、本当に殿下の狙い通りになるなんて。ありがたく引き受けさせていただきましょう!」


 嬉しそうなヘレナの声。これで村人たちと対立せずに済むと、安堵したように息を吐く護衛たち。


 横にはヘレナの乗り気な目。背後には、これで村人と対立せずに済むからか、ほっとしたようにため息を吐く護衛たち。

 目の前には、真摯に私を見つめるアーサーの顔。


 期待と緊張感の満ちる中で、私はふむ、と一人腕を組む。

 たぶんこれ、ゲームで言うならイベントシーンだ。

 私の前には選択肢が出ていて、『はい』を選んだらイベント進行。アーサーを味方につけて、ここからまた新たな展開が始まるのだろう。


 そういうことなら、うん。

 私は意を決して、アーサーに視線を返した。


「お断りするわ」


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