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【アーカイブ】魔物についての研究資料

【正式名称】

好瘴気性有機魔石生成型内的発動魔法生物


(俗称:魔物 以下、俗称を用いる)


【定義】

魔物とは、以下をすべて満たす個体であること。

・動物、または植物である

・体内に瘴気吸収器官を有する

・体内に魔石生成器官を有する(※)

・外的要因なしに自発的に魔石のエネルギーを利用できる


※瘴気吸収器官と同器官である場合を含む


長年魔物と同一視されていたアナグラオオクチカエンネズミは、近年の研究により、体内に魔石の生成器官を持たず自然に生成された魔石を用いていた事が明らかになったため、魔物から除外する。

また、これにより魔物の定義が見直され、瘴気吸収器官を持ち魔石を利用することのみでは魔物の定義が不足しているとして、体内での魔石生成が条件に加えられた。


【分類】

魔物は以下の三種に分類できる。

・既知植物の近縁種

・既知動物の近縁種

・既知の植物/動物に類似性を持たない種


既知の植物/動物に類似性を持たない種は観測例が極端に少ないため、この資料では既知植物の近縁種/既知動物の近縁種である魔物についてを記す。


【分布】

セントルム王国北部、マグヌス大帝国南部、リエント王国西部にまたがる中央大山脈、および中央大高原全域、および大陸北部の森林地帯・草原地帯に主として生息。

また、大陸に点在する高濃度瘴気蔓延地帯および一部山岳部にも少数生息が確認されている。

さらに、小型の魔物は都市部に適応し、大陸全土に分布が見られる。


【形態】

既知の植物/動物の近縁種である場合、基本的な形態は近縁の既知植物/動物に近しい。

大きさは近縁種より巨大化する傾向にあり、最大では約十七倍の大きさになったものが確認されている(※)。

この巨大化傾向は、体内に瘴気吸収/魔石生成器官を持つことが原因と考えられている。


(※)アカミミヤマネズミ近縁種。約一.七メートル。セントルム国立博物館に剥製の展示あり。


【生態】

既知の植物/動物の近縁種である場合、基本的な生態は近縁の既知植物/動物に近しい。

以下では、上記に加えて魔物として特有の生態について記す。


・性質

魔物は総じて攻撃性が高い個体が多く、多くの場合が己の属する群れ以外に対して排除行動を取る。

また、群れをつくらない種も多く、その場合は繁殖行動時以外には同種の魔物を寄せ付けない。

次項に記す魔法の能力を有するからか、自身より巨大な相手に対しても攻撃性が減少することがないため、小さな魔物であっても接触には十分な注意が必要である。


・好瘴気性

魔物は好瘴気性を持ち、瘴気を含んだ水や餌を好む。

このため、生息域は瘴気濃度の高い地域に偏り、瘴気濃度の変化によって生息地を移動させる。

魔物が瘴気の摂取を断った場合、身体的な影響はないものの、攻撃性を大きく失うことが知られている。


・食性

肉食性、または肉食寄りの雑食性。

魔物以外の動植物も捕食するが、魔物をより好んで捕食する傾向がある。

植物性の魔物の場合は死骸などに根を張り栄養を摂取する。

完全草食性の魔物は、現時点で観察された例がない。


・繁殖

同種の魔物同士で繁殖し、その形式は近縁の既知植物/動物に近しい。

異種の魔物同士での繁殖の例は存在しない。

また、近縁の既知植物/動物との交配を試みようとした例が野生種で観測されているが、繁殖に至った例は観測されていない。


・生活史

身体的に未成熟な期間(幼体)と成熟した期間(成体)があると考えられている。

魔物の幼体はほとんど確認された例がなく、ごくわずか、動物性の魔物に関して出産直後の姿が数例記録されているのみである。また、植物性の魔物の発芽については確認されていない。

これは、魔物が既知の植物/動物に比べて非常に生存率が高いため、繁殖数が少ないことが一つの要因ではないかと考えられている。


【魔法】

・種類

魔物の使用する魔法は個体差があるものの、その魔物の種類によってある程度限定される。

近縁の既知植物/動物が捕食者としての性質が高い場合には攻撃的な魔法を、近縁の既知植物/動物が非捕食者としての性質が高い場合には、防衛や逃走のための魔法を使用する傾向がある。

また、魔物は複数の種類の魔法を使用することはほぼなく、そのほとんどが一種類の魔法のみを使用する。

これは、魔物の持つ瘴気吸収/魔石生成器官の性能に依存しているのではないかと長年考えられていたが、昨今の観測により一体の魔物が複数種類の魔法を使った事例が確認され、現在では認識が改められている。

新たな説として、魔物の認知能力に依存しているというものがあるが、こちらもまだ仮説の段階であり、さらなる観測・調査が求められている。


・使用と制約

魔物は魔法を発動することで、体内で生成した魔石を瘴気へと再生成する。

このため魔法を連続で発動することができず、また魔法発動時に体内の瘴気を放出し、攻撃性を失うと考えられている。

これにより、魔法発動後の魔物は逃走しやすく、捕獲は困難を極める。


【活用】

・食用

不可(有毒のため)


・加工

外皮は近縁の既知植物/動物に準ずる。

体内の部位については毒性が高く、加工が困難。


・飼育

不可(過去に何度か試みられたが、成功例はなし)


・魔石

現時点では不可(次項目に詳細を記す)


【魔石】

魔物の生成する魔石は有機魔石と呼称され、高濃度瘴気蔓延地帯の洞窟などで生成される無機魔石と比較して保有するエネルギーが低く、安全性が高いとされている。

また、外部刺激で比較的容易に反応するため、昨今では魔石のエネルギー活用方法の模索について盛んに議論が行われている。

しかし、魔物から有機魔石を入手できるかには個体差があり、また魔物自体が危険な生物であるため入手は非常に困難である。さらに有機魔石は、無機魔石とは異なり非常に美しい結晶体であることから、収集品として非常な高値で取引されており、その点でも入手の難度が高いと言える。

ゆえに、現時点では有機魔石を得る機会がなく、研究そのものが難航している。

さらには、魔石反応時に放出する高濃度の瘴気曝露による強い健康被害も懸念され、有機魔石の活用に対して難色を示す研究者も少なくない。


【メモ】

魔物とはなんなのか? とは我々魔物研究家の永遠のテーマである。

悪魔が作った異形の怪物なのか、あるいは我々と同じく神に愛され形作られた動物なのか。などというセンチメンタルな問いではない。

いや、ある意味では全く同じ問いであろうか。

つまり私が言いたいのは、魔物とは《我々の仲間なのか、そうでないのか》だ。


魔物とは、姿かたちがたまたま似ただけの、まったく遠い存在なのか。

それともたまたま瘴気吸収器官を持っただけの、我々と同じ存在なのか。


既知の近縁種との交配行動から、同種であるとみなす研究者もいる。

繁殖に至らないことから、完全な別種であると考える研究者もいる。

この答えを出すためには、実際に交配された例を見る他にないだろう。


そのためにも、必要なのは魔物の生態飼育である。

あるいはこれが難しければ、長期間による生息域での観測である。

魔物は繁殖行動自体が少ないとなれば、とにかく腰を据える他にない。人間への被害の軽減、魔石の活用にもつながる魔物の生態解明のため、これは避けてはならない必須事項である。

王立研究所はこの必要性を早急に認め、予算を割り振らなければならない。魔物研究とは王国発展の礎であり、いまだ実現の目の見えない魔石研究などにかまけている場合ではない

ましてや、ただでさえ冷遇されている我々の予算を削ろうというのは、文化文明への反逆であり――(以下罵詈雑言)



【後年の補足】

「魔物が既知の植物/動物に比べて非常に生存率が高いため、繁殖数が少ない」という記載は誤りで、実際には魔物も通常の生物よりやや高い~同程度の生存率である。繁殖数が少なく見えるのは、魔物の観測事例自体が少なく、また幼体の期間が短いことから子育ての光景を目にすることがないためである。



――――――――

文明度の目安

・ダーウィンの進化論 →未発見

・細菌 →未発見

・ニュートン力学 →発見済み

・天動説 →覆り済み、ただし庶民まで浸透はしていない

・蒸気機関 →未開発、原型に近いものはある


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