14.先住民の力を借りてみよう(3)
先住民の男は嫌そうな顔をするけれど、そもそもの話、今回の取り決めをしたのは私なのだ。
対等な立場での約束でもなし。先住民たちは前領主からの私という最悪のコンボでこちらに悪感情を抱いているし、村人は村人で先住民たちへ偏見を持っている。
この状況で「話をつけたからあとはよろしく」と放任すぎるには、あまりにも不安要素が大きすぎる。
つまり、私がここにいるのは当然。私は現場監督として両者を監視し、もしも問題が起きれば止めに入るためについてきた。
決して、断じて、魔物狩りがしたかっただけというわけではないのである。
ということを手短に説明してから、私は逆に彼へと問いかけた。
「むしろ、どうしてあなたがここにいるの? 狩りには参加しなかったの?」
私としては、彼がここにいることの方が不思議に思う。
彼は若く、体格もいい。他の先住民たちに比べて背も高く、身のこなしからよく鍛えられているのも感じられる。
それなのに、火の番をさせるなんてもったいない。
まあ、体格が良ければ狩りが得意というわけでもないだろうけれど、それにしたって、血気盛んな若者が大人しく留守番をしているのは似合わなかった。
いったいどういう理由だろうかと首をひねれば、様子を見ていた族長がぽつりと短い言葉をつぶやいた。
うん? どう考えても私たちに向けて言ったよね?
「…………なんて?」
とはいえ、彼らの言語はわからない。
通訳してもらおうと、私は首を傾げたまま男へ問いかける、が。
「…………」
いったい何を言われたのか、男の端正な顔が大きく歪む。
唇を曲げ、眉をしかめ、なんとも言えない顔で族長を見ている。
怒り……とは少し違う。苛立ち? 不愉快? 不満とも不服ともつかない、なんとも苦々しい顔だ。
いったい族長、彼になにを言ったのだろう。
「……………………俺がここにいるのは、お前らを見張るためだ、と言っている。お前たちが信用ならないから、長は俺を護衛に選んだんだと」
いやそれ絶対嘘でしょ。
そんな名誉ある役目なら、そんなしかめっ面しないでしょ。
うーん、気になる。族長の言葉、頭に叩き込んであとでアーサーに聞いてみよ!
などと考える私はさておき、族長は続けていくつか男に言葉を投げかけた。
身振りを交え、一番大きなテントを指さす様子から、今度はその内容になんとなく察しがつく。
たぶん、これから族長はテントに戻るとでも言っているのだろう。
それでも大人しく話し終わるのを待っていれば、族長がテントへ向かって歩き出す。
男はそれを横目に、未だ草むらに立つ私たちを手招きをした。どうやら、ただテントに戻るというだけではなかったらしい。
「ついてこい。狩りに行った奴らはどうせしばらく戻ってこない。――長が、中で話をしてやるってさ」
「話? なんの?」
草原から歩み寄りつつ、私はピンとこずに問い返した。
私としては族長と話したいことがいろいろあるけれど、彼の方から話をしたいことがあるとは思えなかった。
なにせ、こっちは脅して無理やり協力を要請した嫌われ者だ。我ながら、けっこう悪辣なことをしている自覚はある。彼らからしてみれば、できれば関わりたくない相手。口も利きたくないと思われているだろうと思っていた。
しかし、私の想像とは裏腹に、彼は不服そうなままこう答える。
「今回の狩りについてや、採集について。魔物のあしらいかた、瘴気との付き合い方、草原での過ごし方。契約外ではあるけどな。――こういうの、なんて言うんだったか」
そう言うと、彼は少し考えるように頭を掻いた。
普段使い慣れない言葉を探すように、記憶に埋もれた言葉を思い出すように。
しばし気難しげに口を結んでから――。
「そう。――サービス。これはサービスだ。聞く気があるなら、俺たちの暮らし方について少し教えてやるってよ」
告げられたのは、願ってもいない、だけど予想だにしない言葉。
思いがけない提案に、私はぱちりと瞬いた。




