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14.先住民の力を借りてみよう(2)

 それではもう一度、ご唱和ください。

 せーの。


 魔物狩りだ――――――――!!!!!!!!!!!


 魔物狩り。ああ魔物狩り。魔物狩り。

 討伐ではなく、ハンティングである。


 いったいなんて耳に心地よい響きだろう。ゲーマーテンション駄々上がり。

 こんなのもう、現実じゃなくてゲームじゃん。魔物(モンスター)狩猟(ハント)じゃん。

 開拓ゲームが好きだからといって、他のゲームをしないかといえば別の話。別ゲーの気配に、それはそれで気持ちが昂るというもの。

 今の私は、それはもうウッキウキのワックワクだ。語彙という語彙もとろけていく。実のところ、今日は朝からそわそわが止まらなかった。


 いやね、それにね、ゲーマーだからというだけではなく興奮もしているのだ。

 だって食えない魔物とか言ったけど、絶対に利用手段があると思っていたからね!


 なにせ魔物は大型獣。あんな立派な獣を、ただ討伐するだけなんてもったいない。

 私が予想するに、他の土地では魔物の生息数が少なすぎて、毒を抜いてまで食べる技術が発展しなかっただけなんじゃないかと思っている。

 その点、魔物がもっと多いこの土地なら、魔物肉も手に入りやすい。魔物のせいで他の獣にも逃げられやすく、他に食べるものがなく魔物食に挑戦する機会も多かっただろう。

 そんな歴史を繰り返し、毒抜きの手法が確立されているのではないかと思っていた。

 なにしろ私がここの住人だったら、真っ先に食糧にしようと考えるからね!!




 ということで、魔物の狩猟方法と利用方法を教えてくれると言われて、一も二もなく交渉に応じてしまった。趣味と実益を兼ねた最高の提案だから、こうなっちゃうのも仕方ない。実際、熟考を重ねたとしても、この提案にはやっぱり応じていたと思うしね。


 それで本日の講義ですが、あまり大人数は困るという先方の要望で、参加者は狩りの得意な村人五名。プラス、本当は騎乗して狩りをするのが先住民のやり方だというので、騎乗能力のある護衛も一名。あとは通訳としてのアーサーだ。

 本当は村人全員を呼びたかったけど、まあ狩りをするのにぞろぞろ連れ立つのもおかしな話。互いに好感を抱いていない者同士、大人数だと余計な騒ぎも起きかねないし、村に残った者たちには、あとで受講した村人たちから再レクチャーを受けてもらうことにしよう。


 本日の出席者兼講義不参加者としては、私をここまで連れてきた御者と、私を守るための護衛一人。それから、やっぱりどんな無茶をするかわからないということで、ヘレナがいる。

 彼らは狩りが終わるまで、先住民のキャンプに邪魔をさせてもらってのお留守番だった。


 さて、ここまでで前提が終わり。

 私たちの到着に先住民が動き出し、アーサーが通訳をしながらついてくるように呼び掛けている。

 通訳によると、これから草原に向かって獲物を探しに行くのだそうだ。背の高い草の中に消えていく先住民を、村の男衆たちは互いに顔を見合わせてから、まだ不審さの抜けきれない顔で追いかけていく。

 その背中を、さらに私も追いかける。

 いったい彼らは、どうやってあの危険な魔物を狩るのだろうか。

 興味津々、足取りも軽々。私は期待に胸を膨らませながら、草むらに足を踏み入れた。


 さあ、魔物狩りチュートリアルのはじまりだ!




「――――こらこら、殿下はこちらでしょう」


 はじまらなかった。


「みなさんの邪魔をしてはいけませんよ。殿下は野営地でお留守番です」


 草むらに踏み込んだ直後、私の腕をヘレナが掴む。

 迷子でも見つけたように捕まえて、そのまま護衛に引き渡し。留守番役の護衛は私を軽々抱き上げて、そのまま馬車に押し込んでしまった。

 横暴な!


「殿下の足ではみなさんに追いつけないでしょう。狩りに馬車で行くわけにもいきませんし、馬で追うにも、殿下はまだ小馬(ポニー)にも乗れないでしょう」

「ぐう…………」


 ぐうの音しか出ない正論。

 大人の足に私が追い付けるわけもなく、小馬ですら私には大きすぎる。そもそもここには小馬自体がいないのだ。


 つまりは、言い返す言葉もない。

 草むらから遠ざかっていく村人たちを、私は泣く泣く見送る他になかった。


 うぐぐぐぐぐぐぐぐ………………。

 行きたかったあ……………………。






 と涙を呑んだところで気を取り直し。


 やってきたのは先住民の野営地だ。

 族長の身振り手振りの案内についていき、私は川べりから少し離れた見晴らしのいい丘の上に立っている。


 野営地は丸く草が刈り取られ、彼らの集落のテントよりも二回りほど小さなテントが張られていた。

 テントの数は三つほど。テントに囲まれた中央に、獣除けのためだろう、すでに大きな火が焚かれていた。


 野営地の付近には、人の気配はほとんどない。

 ほとんどが狩りに出てしまったのだろう。今は背の高い先住民が一人きり、火を絶やさないように焚火の番をしているところだった。


 せっかくの狩りに不参加とは、いったいどんな貧乏くじか。

 火の傍に座る先住民に共感と同情の目を向ければ、あちらもこちらに振り返る。


 そのまま何とはなしに目が合った瞬間、互いに声が出ていた。


「あ」

「げっ」


 げっ、とあからさまに不快な顔をしたその人物に、私は見覚えがあった。

 忘れようにも忘れられない。こんなに嫌そうな顔をしていても顔は良い。

 先日、私にナイフを突きつけてきた男。通訳要らずの若い先住民が、私を指さして叫んだ。


「お前はあの時の無礼な女! なんでお前がここにいるんだ!?」


 ううむ、実にベタな台詞。ツンデレの素養がある。


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