2.春に向けて計画を練ろう(1)
それじゃさっそく回想回想。
まずは久々に、村のステータスから。
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【開拓村 ステータス(5年目早春)】
【総人口】
総人口: 46人(現在)
【人口内訳】
男性:25人(うち負傷2人)
女性:16人
子供:5人
【職業】
無職:46人
【食糧生産】※村人1人あたり1日の消費量を1として換算
消費量:46/生産量:0
【食糧備蓄】※村人1人あたり1日の消費量を1として換算
138
【薪】※村人1人あたり1日の消費量を1として換算
消費量:25/生産量:25
【薪備蓄】※村人1人あたり1日の消費量を1として換算
0
【備考】
妊婦:11人(New!)
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いや【New!】じゃないんだわ。
どうするのこれ。
というわけで、三月末日。昨日の私はほぼ一日中、執務室にこもって頭を悩ませていた。
目の前には村のステータス。片手には薬茶。部屋の隅にはヘレナが控え、窓の外には雪景色。まだまだ寒々しい空を横目に、私はううむと腕を組む。
うむ。うううむ、ついに来てしまった五年目春。
いや私が着任した時点で四年目秋だったので、実際にはまだ一年経っていないのだけど。
とにもかくにも、村としては五年目春。状況としては、ぶっちゃけ私が来た四年目秋よりも悪化しているといっていい。
食糧は、悪徳商人アルドゥンの残した遺産の他にはほとんどなし。薪は厩を現在進行形で解体中。村の家々も半数近くは半壊し、村人たちは領主屋敷で集団生活中。
しかも村人十一人は妊娠中。今は妊娠初期の体調不良のただ中で、安静が必要な状態だ。
三月が終わるというのに、外は未だ雪解けの気配がない。それどころか、なんなら今もときどき雪まで降る。
完全な雪解けまでは、長ければあと一か月はかかるという。それまでは、ほぼ冬と変わらない生活を送らなければならないだろう。
つまり、村人四十六人、今は全員職なしだ。
いやまあ、実際のところ食事の準備やら薪割りやら水汲みやらと、細々とした仕事はみんなしているのだけどもね。
病気やらトビーの失踪やら体調不良やらで追われている間に、仕事の分担がなあなあになってしまった。となれば、今後を見据えて一から割り振り直すことが必要になる。
さて、この見据えるべき『今後』。
一つはもちろん、雪解けまでの一か月間の過ごし方だ。
アルドゥンの遺産もいつまでもは続かない。というか、まともに食べていたらあと三日しかもたない。
節約すればもう少しは伸びるだろうけれど、それにしたって一か月を持たせるのは無理がある。
というわけで、こちらは狩りの再開を考えている。
いやずっと再開しよう再開しようと思っていたのだけど、いろいろありすぎて伸ばし伸ばしになってしまっていたのだ。
それでも狩りの準備自体はさせていたし、もう吹雪くことも無くなった。
となれば、いい加減本格的に狩りの再始動。瘴気が完全に薄れて魔物がいなくなる前に、なんとか魔物狩りで食糧を稼いでおきたかった。
そしてもう一つの『今後』とは、当然雪解け後のことである。
五月になれば、このノートリオ領の雪も解ける。
長く厳しい冬の最後の名残も解け消えて、再び草原に緑の戻る、本格的な春が来る。
ノートリオ領の春は短い。うかうかしていればあっという間に期を逃し、再び冷たい冬を迎えてしまう。
その前に、私たちはここで十分な食糧を得なければならない。
妊婦たちに十分な栄養を与え、生まれくる子供たちを養い、次の冬を乗り切るための蓄えを作っておかなければならないのだ。
私にとっては、これから挑むのは初めての春。
なにも知らない、まだ見たことのない春という季節は、もしかしたら耐え忍ぶだけの冬よりも、なお厳しいのかもしれない――――。
というところで、深呼吸。精神統一精神統一。
ついでにヘレナが淹れた薬茶も一口飲んで、大きく息を吸って吐く。
それからキリッと顔を引き締め、えーえー、こほん。
た、た、た、たのし~~~~~~~~~~~~!!!!!!!
知らん季節楽しみ~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!
いやあ、冬、長かったからね! 厳しかったけど、耐えるだけでずっと受け身だったからね!
でも、ここからは自分でアクションしていくことになる。
作物を植えて、獣を狩って、採集をして。さらには新規で探索、植物採集。魔物も減って寒さも和らいだ今、遠出もできるようになった。
となれば、やれることは無限大だ。アルドゥンの残した謎の種も植えたいし、スレンたちが食べているという夏芋も探したい。瘴気毒の抜き方を知った今、もしかしたら川魚も取れるのではないかと見越している。
ううううううむ、うむ。やれることが多すぎて、どこから手を付ければいいかわからない。
この、一気にできることが増える感じもゲームの醍醐味というもの。これは開拓ゲームに限らず共感してもらえることだと思う!
せっかくキリッと引き締めたのに、いかん顔がにやけていく。我ながらハイテンション。期待にそわそわ気持ちが落ち着かない。
ステータス表を前に、そりゃ頭も悩ませるいうものだ。えっ、妊婦? 『どうするのこれ』って?
知らん知らん! そんなもんあとで考えるわい!!
ということで、改めましてもう一度。
ああ~~~春楽しみ~~~~~!!
まずはどこから手を付けようかな~~~~~!
あれもこれもやりたいけれど、やっぱり最初にするべきことと言えば―――――。
「――――――川を渡って、隣領に助けを求めることです!」
ごもっともオブごもっとも。
すっかり浮かれ切り、思考を口から垂れ流していた私に向け、部屋に控えていたヘレナが険しい声でそう言った。




