1.【ムービーシーン】雪原を駆ける黒い影
四月一日、未明。
夜明け前の雪原を、馬に乗った男たちが駆けていく。
薄明の空は暗く、周囲の視界は定かではない。それでも馬を手繰る男たちの手に迷いはない。
まだ雪解け前の大平原をまっすぐに横切って、南へ向かう足跡を残していく。
風を切る男たちは身軽だった。防寒具こそ着ているものの軽装で、腰に差した短剣の他には武器も見えない。この広い平原に、野営の道具一つさえ持ち込んでいる様子がない。
彼らが持っているのはただ一つ、布でぐるぐるに巻かれた一抱えの荷物だけだった。ちょうど人の子供ほどの大きさの『それ』を慎重に抱え込み、ときおり注意深く周囲に目をやりながらも、彼らは足を止めることなく走り続ける。
できるだけ早く。できるだけ遠くまで。できるだけ、誰にも見つからないように。
言葉を交わす暇すら惜しみ、まるで日の出から逃げるように、暗闇にまぎれて南へ、南へ。
まだ獣さえも眠る時間。凍てつく音のない雪原には、馬の荒々しい足音だけが響き渡っていた――――。
〇
というわけで、現在の私は荷物である。
猿ぐつわを噛まされ、両手足を縄で拘束され、挙句に布を頭から被せられて運搬されている真っただ中。なんとなく馬に乗せられ、なんとなく明け方、なんとなく南に向かっているような気がするなあと想像しつつも、身動き一つ取れない状況なのである。
――いやあ、まいったわね……。
馬の背に括りつけられたらしい状態で、私はううむと喉の奥で唸る。
声は出せない。体も動かせない。周囲の様子も見えず、今自分がどこにいるのかもわからない。
わかるのはせいぜい、どうやら私は誘拐されているらしいということだけだった。
うーん、まいった。ようやく冬を乗り越えて、ここから待ちに待った新展開。ついに春の開拓に挑もうというところだったのに、いったいどうしてこんなことになってしまったのか。
いやまあ、『どうして』もなにもなんとなく予想はついちゃっているのだけども。
ぶっちゃけ犯人なんて一人しかいないと思っているけども。
それでも、一応は考えてみるのが誘拐された側の務め。
というか、どうせこの状況だと考える以外にできることなんてないわけだしね。
そういうわけで、誘拐犯が目的地に着くまでの道中。どうしてこんなことになったのか、ここまでの記憶を思い返しながら少々考えてみることにしよう。
短いけど他に切る場所がなかった……。




