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43.【イベント】いなくなった村の子供を捜せ!(12)

 スレンは私の体を掴むと、雪崩からかばうように片腕で抱え込んだ。

 もう片手は、ロープの一端を握ったままだ。命綱のようなものはない。ただただ、握りしめたロープだけで、彼は自分の体を支えていた。


「どんな身体能力!? どんな運動神経しているのよ!!?? というかどうしてここに!! 今私の名前呼び捨てにした!!!??」


 おおおお、混乱しすぎて疑問しか出てこない!

 でもでもでもでも! 身体能力おかしくない!? ロープ伝って雪崩に逆らって下りてくるって、それ開拓ゲームじゃなくてアクションゲームのキャラの能力じゃない!? 一人だけ違うゲームやってない!!??

 っていうか呼び捨てにした! この私を、呼び捨て! しかも勝手に略されてるし!! アレクって、女性の略し方じゃなくない!!??


 ああもう、大混乱!!

 冷静でない私に、スレンもぎょっと目を見開く。


「どうでもいいだろ、それ!!??」

「いや、そうなんだけど――――げほっ! おえっ!!」


 やっば、吐き気! これ瘴気のせい!?

 厳冬期の瘴気ピークなんて目じゃないほど濃いじゃん!!!???


「口を閉じろ! 息を吸うな! 噴出直前は致死量だ!!」


 マジで!? そこまで!!??


 い、いや、混乱している場合じゃない! 落ち着け落ち着け、まずは一度深呼吸――じゃなくて!


 大きく息を吸いかけ、危ういところで口を閉じる。

 そのままぐっと唇を引き結ぶと、私は無数に浮かぶ思考を払うように大きく頭を振った。

 いろいろ思うところはあるけれど、いったん全部棚の上だ。余計なことは考えていられない。とにもかくにも、この状況からの脱出が第一である。


 ――ええと、ええと、まずは状況整理……!


 スレンが雪崩からかばってくれたおかげで、腕の中のトビーはなんとか無事だ。けっこう空気を吸ってしまったおかげで吐き気がひどいけれど、なんとか我慢できないこともない。気を抜くと飛びそうな意識は、どうにかこうにか気張って耐える。

 問題は、背後で時を待つ噴出口だ。蒸気はまだ増え続け、あたりの空気は熱を持ち始めている。噴出口からはボボッと湯の煮えたぎるような音が響き、噴出まで間もないことを感じさせた。


 息はできない。頼りはロープ一本。残り時間はごくわずか。

 雪崩は先ほどより落ち着いているものの、まだ岩場には雪が残っている。地面は今も揺れ続けていて、これがいつ崩れ落ちるかわからない。


 ――どうする……!?


 自力で上がるのは難しい。蒸気で目の前は見えない。そもそも目自体が、瘴気のせいか妙に蒸気が染みて、まともに開けていられない。

 歪む視界に、私は思わずごくりと息を呑む。


 だけど、こんな状況だというのに、スレンは不思議と落ち着いていた。


「上がるぞ。俺は片腕しか使えない。その子供、お前が掴んでいろ」


 スレンの片腕はトビーと私を抱え込んではいるものの、しっかり捕まえているとは言い難い。特にトビーは力が抜けていて、自力で体を支えられない状態だ。誰かが掴んでいなければ落ちて行ってしまう。


 ――上がるって、ここからなにをする気……!?


 とは思うものの、今の私には他になんの案もない。スレンがなにかする気なら、それに乗っかるのが上策だろう。

 そういうわけで、私は声を出さずにこくりと頷き、またしてもトビーを抱え直した。


 正直なところ、腕にあまり力は入らない。息ができないせいもあるし、意識が危ういせいもあるし、増していく瘴気に肌が痛んでいるせいもある。

 それでもどうにか力を込める私を一瞥すると、スレンは視線をロープの先へと向けた。


「引っ張り上げろ、ベアトリス!!」


 スレンがそう叫ぶと同時に、ロープがピンと張り詰める。

 どうやら、上から引っ張られているらしい。スレンの言葉通りなら、おそらくはベアトリスの仕業なのだろう。


 思えば、括りつける場所もないような大草原。私が噴出口へ降りたとき、傍にいたのはスレンとベアトリスだけだった。

 私がスレンにロープを預け、そのスレンがここへ来てしまった以上、ロープを掴んでいるはベアトリス以外に考えられないわけである。


 ううん、賢い。そして力強い。

 男一人、子供二人のぶら下がるロープを、揺れる地面と崩れる雪の中でも取り落とさずにいたのだから大したもの。

 とはいえ――――。


 ――持ち上がらない……!


 ロープは張り詰めたまま、ほとんど上に動かなかった。

 こちらが重いのか、勾配がきついのか、あるいはベアトリス側になにかあったのか。上に引き上げようという力は感じるものの、そこで動きが止まってしまう。


「くそっ!」とスレンが悪態をつく。背後では、ボコボコと煮えたぎる音が増していく。周囲は熱く、だけど背中にひやりと冷たいものが走る。

 焦れるような数秒間。そろそろ息を止めるのも限界が近い。もはやこれまでかと、不安が頭をよぎったとき――――。


 動かなかったロープは不意に、ぐんっ、と一気に動き出した。


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― 新着の感想 ―
3人で100kgがいいとこだから馬車引ける馬が力負けって線は薄いな。もちろん、ロープを口にくわえたままって形じゃ上手く引けないってのもあるだろうけど。 村人衆がベアトリスと合流できたかどうかがポイン…
オーエス!オーエス!
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