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9.魔物の襲撃に備えよう(1)

 魔物とは、野生動物の一種。

 そのうちの、()()()()()()()を持つ生物の俗称だ。


 学術的に分類すると、体内に瘴気の吸収・合成器官を持つもの。瘴気を取り込み、体内で変化させ、別の物質として利用できるもの。ただし、単に毒素として蓄積するだけのものは含まない。


 この魔物の体内で合成される物質を、魔石という。

 魔物とは魔石によって放たれる特殊な技――魔法を使う獣のことを指すのである。




「――――うわあああああああ! 魔物だ! 魔物が出たぞ!!」

「デカいぞ! だめだ、柵がもたねえ!!」

「村に入ってくる! 逃げろ!!」


 村は阿鼻叫喚の様相だった。

 女子供は悲鳴を上げて散り散りに逃げ、村の動けない男たちが農具を手に叫ぶ。

 狩りに出ていた男衆も一部が戻ってきているが、魔物を遠巻きにしたまま手が出せないでいる。


 一方の魔物は、咆哮を上げながら柵へと体当たりしているところだった。

 半壊し、もろくなった柵が軋んで、魔物の力に押し負け跳ね飛ばされる。まさにその瞬間に駆けつけた私は、響く轟音と咆哮の中で、真正面から魔物を見ることになってしまった。


 ――――――で。


 分類学上の魔物の定義は、体内に魔石を生成する器官を持つこと。

 だけどそれ以外にも、学術的な根拠のないいくつかの特徴がある。


 たとえば凶暴であること。

 魔物は多くの場合、自分以外の生物が近くにいることを好まない。一定の距離まで近づけば襲い掛かられ、運が悪ければ遠く目が合っただけでも襲われる。体格で相手に怯むこともなく、多少の傷にも逃げ出さない魔物は、追い払うだけでも困難を極める。

 もちろん、人に懐くことも決してない。世の中に少なからず存在するという物好きな魔物愛好家が、手に入れた魔物に噛み殺されたというものは、聞き飽きるほどに聞いた話だ。


 たとえば肉食であること。

 魔物は総じて肉を好む。植物を食べる魔物の姿は確認されているが、植物だけを食べている魔物は未だ見つかってはいない。

 ゆえに、大人しい魔物というものは存在しない。草を食むような見た目の魔物も、その本性は肉食だ。見た目に騙され手を伸ばせば、その手を容赦なく噛み千切られることになるだろう。


 そして、なによりも特徴的なのが――――。


 ――でっっっっっか!!!!!!!!!


 その体の大きさだった。


 魔物の体は、総じて同属と思しき野生動物よりも大きくなりがちである。

 平均すると、だいたい同属より一回りから二回りほどは上。中には十倍ほども体の大きさの違う、もはや怪物としか言いようのない魔物まで存在するという。


 ――実物の魔物なんて初めて見たわ! なにあれ、狼!?


 目の前に迫った巨体に、私は思わず身をのけぞらせる。

 見た目は灰色の毛を持つ狼。だけどその大きさは、体高だけでも私の背丈をゆうに超す。

 立ち上がったら二メートルはくだらないだろう。ほぼ大型の熊のサイズである。


 それが、狼の機動力で飛び掛かる。

 猛りながらこちらへ向かってくる魔物を見て、護衛たちが慌てて前へ飛び出した。


「殿下は安全な場所へ! ここは我々が対処します!」


 もちろん、ここで駄々などこねるわけもない。

 促すような護衛の言葉に、私は迷わず頷いた。


「わかったわ、あとをお願い!」


 そう言うや、身をひるがえして物陰へ逃げる。魔物相手に私ができることはない。

 この状況で出せる指示もないし、そもそも戦闘なら彼らの方が専門なのだ。


 魔物は普通の獣よりは珍しいけれど、まったくの未知の存在というわけでもない。

 魔物が現れたら、対処するのは騎士の役目。護衛たちは騎士の出自であり、騎士であるからには訓練として魔物討伐の経験も積んでいる。倒し方にも騎士なりのセオリーがあり、なにが危険でなにが危険でないのかは、彼らがよく知っているはずだ。


 ただし、ここで問題が一つ。




 ――――魔物を含む大型の野生動物は、それだけで十分に強いのだ。


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