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28.厳冬期の猛威を乗り切ろう(1)

 新年会から一週間。早朝、執務室にて。

 私は吹雪の音を聞きながら頭を悩ませていた。


 なにを悩ませているかと言えば、ありとあらゆることである。

 だけど強いて言うのなら、この嵐のような吹雪が一番の悩みの種だろう。


 この吹雪、実のところ新年会の翌日から続いていた。

 大いに騒いでから解散し、朝起きたら猛吹雪。それからはときおり勢いが弱まりつつも、日を追うごとに勢いを増しつつ本日。

 屋敷全体を揺らすような吹雪に、私たちは完全に閉じ込められてしまっていた。


 ちなみに吹雪の勢いは一昨日の朝から緩まず、今朝で閉じ込められてからまる二日。

 そろそろ勢いが弱まってくれないかな~と思いつつ、外の吹雪はやる気満々のようである。


 こうなると窓も開けられない。鎧戸すら開けられないまま、燭台と暖炉の火を頼りに暮らす日々。

 吹雪のせいで寒さも増す。強風が瘴気も運んでくる。閉じ込められた村人は不安になる。

 外に水も汲みにいけない。厨房のすぐ裏手にある薪置き場に出ることさえ難しい。水も薪も屋敷の外にはあるのに取りに行けず、屋敷内に運び入れた分は残り少ない。

 そのうえ窓枠は風にガンガン叩きつけられるし、この吹雪の中でも魔物の遠吠えは聞こえるし、いつまでたっても吹雪の止む気配はないし、それでも私たちにはなすすべがない。


 つまり、これがどういうことかというと――――。


「――――王女さん、大変だ! 今日の分の薪が足りなくなっちまった! しかも外に取りに行こうとした連中がすっころんで怪我をしやがった!!」

「――――領主さん、大変だよ! 井戸に行けないからいい加減水が足りないんだ! 飲み水も節約してきたけど、もうこれじゃ朝食も作れないよ!!」

「――――王女様、もう本当、大変なんです! 寒さでみなさんが体調を崩して、診療所の手が足りてなくて!!」

「――――殿下、大変です!! この吹雪で、もう二日も厩に行けていないんです! このままじゃ馬たちが飢えてしまいますよ!!」

「――――殿下、大変です~~~~! 今日の瘴気の濃さ、通常の五倍以上ですよ、五倍以上!! 僕は今、ものすごく貴重な体験をしています!!」


 屋敷はとんでもなく大変なことになっていた。




 そういうわけで、改めて執務室。

 頭を悩ませる私の前には、報告に駆けつけた人々がずらりと並ぶ。

 緊急事態に大慌てで駆けこんで来る人に、今後の懸念を訴える人、前々から出はじめていた問題の対処を改めて求める人。吹雪も七日目となれば、もうてんやわんやである。


 というか約一名、なーんで嬉しそうなんですかねえ。

 他の報告と違って、これだけ『大変です』のテンションが違う。瘴気五倍て、喜ぶことじゃないだろうに。


 実際、割とこの瘴気問題もシャレになっていない。

 屋内に閉じこもりきりだからなんとかなっているものの、外に出てこの瘴気を浴びたらどれだけ体調不良者が出るかわからない。瘴気に弱い人々は屋内でも調子を崩し、寝込んでいる人も出ているというのに。


 今のところは濃い目の薬茶で対処できてはいるけれど、薬茶だって飲みすぎれば害になる。そのうえ寒さの方でも体調不良者続出で、診療所だってパンク状態だ。まったく、笑っていられる状況ではないのだ。


 寒さが増したせいで薪の消費量も増えているし、そのせいか当初の想定をはるかに超えて薪の在庫が少なくなっている。

 吹雪が続いて厩に行けず、馬たちも飢えていることだろう。

 水を汲みに行けないから、料理に使う水も薬茶用の水も足りない。

 楽天的な村人たちもさすがにこの状況には不安を覚えているらしく、新年早々みんなストレスで気が立っている。

 さらにはそのストレスのせいで、村人たちの間でも些細な言い争いが絶えない。ちょっとしたことで腹を立て、口論は起きるわ喧嘩は起きるわ。頭を冷やすと言って外に出ようとする人間を、必死に止めてまた諍いが起きるありさまだ。


 まとめると、屋敷は大荒れ。村は大騒ぎ。

 雪崩のように問題が発生して、問題対処に悩む以前にどこから手を付けていくべきかが悩ましい。


 やっぱり重要なのは、生死に直結する薪問題?

 それとも水の方を何とかしないと?

 馬たちの様子も急ぎで確認しなければだし、寒さや瘴気のことも、出来ることは少ないとはいえ放置もできない。


 ――いやこれ、一気に問題が起きすぎでしょ!


 と不満も言いたくなるけれど、とにもかくにも捌いていかないと。

 慌てふためきそうなところを、まずは大きく深呼吸。大丈夫、落ち着いて落ち着いて。

 ここは冷静に、大事なところから優先順位を付けていって――――。


「――――殿下、大変です! この吹雪で村の方々も気が立っているらしくて、下の回廊で喧嘩が起きてしまって!!!!」


 あああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!


 無理! 無茶! 馬鹿!! このクソゲー!!!!!!!

 難易度設定したの誰だこれ!! ふざけるな!!!!!!


 ああもう! こんなの、こんなの―――――!!




 …………た、たのし~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!!!

 盛り上がってきた~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!!!


 見てろよクソゲー!! 絶っっっっ対に初見クリアしてやるぅうううううう!!!!!


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― 新着の感想 ―
ノーコンティニューでクリアしてやるぜ! テンションおかしい二人目ですね。 実際はみんなおかしな雰囲気に包まれていますが
ひとりおかしいのが居たな。あ、ふたり居る。
このドМ王女がぁあぁあ!!!(褒め言葉) いや、マジでどうすんのよこのジリ貧(汗) 薪は最悪家具を解体してくべるとして、水の確保と馬の世話がなぁ(汗) 雪解け水も確か瘴気タップリだから使えないって話…
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