27.【イベント】謹賀新年!(1)
ハッピーホーリデー!
そんなこんなで、やってきましたニューイヤー。
準備期間は大きなトラブルもないためサクッと割愛。プレゼントの用意も間に合い、ごちそう作りも順調に進み、すべて滞りないまま現在は食堂。
夕暮れの食堂は、すでにパーティーの準備が整っていた。
長テーブルには、いつもと違って豪華な食事。
とはいってももちろんこの状況では質素なのだけど、食糧の計算を厳密に重ねて、ここまではギリギリ出せる! という限界まで食材を使って用意した、現時点で最大限のごちそうだ。
並ぶのは、いつもよりも具の多いスープに、いつもらしからぬステーキ肉。加えてステーキの横には、収獲したばかりのカブの煮つけとカブの葉の塩漬けが添えられる。
このステーキ肉は、昨年の狩りの最後の獲物だ。
狩人たちが魔物に襲われ大怪我を負ったとき、不幸中の幸い、と言って良いのか手に入れた、魔法発動前に仕留めた鼠型の魔物肉。
好きに使っていいと言われてはいたものの、使いどころを決めかねていた肉も、今日という日が使いどきだろう。
カブはもちろん、先日の温室栽培の収穫物だ。
スプラウトはスープに浮いたことがあったけれど、カブそのものは初登場。少量とはいえ彩りが出て、食事に花を添えている。
加えて、溜め込んでいたチーズと小麦の一部も使用する。
パンを焼くほど余裕はなくとも、水で延ばして麦粥にするくらいならどうにかこうにか。ここに肉汁を加え、ちょっぴりチーズを削ってやれば、今の村では十分贅沢なリゾットだ。
そんな料理を照らすのは、これまた診療所づくりの際に物置から見つけた大量の蝋燭だ。
冬の薄暗さを遠ざけるように飾られた蝋燭たちは、食事だけではなく周囲の様子も鮮やかに照らし出す。
長テーブルの片側には大きな窓。反対側には大きな暖炉。少々武骨で寒々しいありふれた食堂も、本日はパーティー仕様に変わっている。
窓辺を飾るのは、布で作った花やリボン。木材を切り抜いてできた小さな星。信仰を示すシンボルに、神の使いたる白い鳥。
暖炉の両脇には、なにやら詰まれた謎の山。中身を確認しようとしても、上から布をかぶせられているのでよく見えない。
だけど、中身は誰もがわかっている。
あの布の下に隠れているのは、このパーティーでの一番のお楽しみだ。
食堂に集まった村人たちは、おのおの水の入ったコップを手に、パーティーの始まりが待ちきれない様子だった。
いつもと違う場の雰囲気に呑まれたのか、豪勢な食事に目を奪われているのか、あるいは布の下にあるものが気になるのか。そわそわと落ち着かない様子で頬を上気させながら、今か今かと乾杯の言葉を待っている。
そんな彼らの視線を一身に受け、私は食堂の中央で咳払いをする。
見回した限り、村人の姿は揃っているようだ。料理を用意していた女衆も食堂に集まり、水を配っていたヘレナや護衛たちも今は給仕を終え、自分の分のコップを確保している。
準備良し。人数良し。欠席者なし。コップ持っていない人もなし。
それでは、えーえー、こほん。
このあたりで、僭越ながら領主である私が乾杯の音頭を取らせていただくといたしましょう。
私はシャンパン代わりの水入りコップを掲げ、村人たちの顔を順に見た。
「みんな、ここまでお疲れ様。あなたたちの協力のおかげで、冬も半分を乗り越えられました――」
なんだかんだで、冬ももうすぐ後半戦。
いろいろとトラブルもあり、怪我人も出てしまったものの、集まる顔ぶれに欠けはない。
村人たちにはそれぞれ後悔もあれば不安もあるだろうけれど、今は全員が生きて新年を迎えられたことを喜びたい。
そして、これから待ち受けるのは寒さのピークに瘴気のピーク。ここからがさらに辛いところだけれど、切り抜けられるかどうかは村人諸君の協力にかかっている。
全員が揃って春を迎えられるよう、今後もぜひとも力を貸していただきたく――――。
なーんて話をしたところで、こんな状況では誰も耳を貸しやしない。
全員一応私を見つつも、意識があっちこっちに向いているのは見てわかる。
なので長ったらしい口上は心にとどめ、私はコップを持ち上げた。
手短な挨拶もまた、できる領主の心得なのだということで。
さっさとみんなが聞きたがっている言葉を言ってやると致しましょう。
それじゃ、大きく息を吸い込んで――――。
「まだまだいろいろあるけど、今日は全部忘れて楽しんでちょうだい! かんぱーい!!」
いえー!!!!