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6.村の様子を見てみよう(2)

 まあ居座るんですけども。


 だって別に扉もないし。集会場とはいうものの、あるのは大きな屋根と、屋根を支える柱のみ。床は地面が剥き出しで、椅子代わりにいくつか丸太が転がっているだけだ。

 想像するに、建物として作るだけの余裕がなかったのではなかろうか。みんなで集まれて、雨さえしのげれば良いという感じ。実質、屋外作業場とかそういったものなのかもしれない。


 で、そこでなにをしているかと言うと、…………なに?

 山のように積んだ草を広げて……選り分けて……花と葉をむしって……地面に広げて……?

 乾燥させている? そもそもこの草はなに……?


 と丸太の一つを占拠して首を傾げていたら、どこからともなく罵声が飛んできた。


「これは首狩り草だよ! そんなことも知らないのかい!」


 なにそれ……知らん……。

 いや本当に知らない。なんだその不吉な名前?


「花がウサギの頭みたいに見えるだろう。その頭をむしって狩るから、首狩り草! 見たことがないのかい!?」


 見たことがないもなにも、この辺りに生える植生なんて知るわけがない。

 そもそも王都から出たこともないしね。


 そして言われてみれば、むしられた花は花弁の二つだけが長くて、少しウサギに似て見える。もうちょっとウサギに寄せた名前を付けてあげればよかったのに、どうしてそんな邪悪な名前にしてしまったのか。


 で、この草がいったいなんだというのでしょう?


「乾燥させて薬茶にするんじゃないか! 子供でも知ってる常識だよ!」


 薬茶とな。なんのお薬?


「瘴気の毒の薬に決まっているだろう! 軽い症状なら、これを飲めばすぐに治るし、予防にもなるんだ! あんたも飲み忘れるんじゃないよ!」

「はーい」


 と返事をしつつ、思い返すのはアーサーのところで飲んだ苦いお茶だ。

 こんなところに紅茶なんてあるはずもないし、もしかしてあれがこのお茶だったのではないだろうか。


 しかし先ほどから、ほとんど何も言わないのに疑問の答えが飛んでくる。

 いったい誰がと顔を上げれば、ウサギの頭をむしむしとむしる女性と目が合った。


 彼女こそは、先ほど私をよそ者呼ばわりした人物。四十手前ほどの年齢の、いかにも厳しそうな顔つきをしたおばさ……もとい、ご婦人である。


 そのご婦人が、キッと憎々しげに私を睨み、吐き捨てるようにこう言った。


「草の方は、刻めば香草の代わりにもなる! このあたりじゃ確実に食べられる草はこれだけだから、覚えときな!」


 この人、普通に親切だな?


 しかし、これで彼女たちがしていることが把握できた。

 このあたり一帯は瘴気に満ち、植物も毒を持っている。その中で唯一食べられる首狩り草を集めて乾燥させ、冬季の薬兼食料にしているのだ。


 今のところ、この村で食料として収集できそうなのは、狩りで獲った獣と首狩り草くらい。そのうえ冬になれば獣も冬眠するし、アーサーの言う通りならば草原も枯れてしまうという。

 だから今のうちにかき集めなければと、男衆のほとんどが狩りに出て、女衆の半数も家事労働をよそに任せ、食料集めに駆け回っているのだろう。なるほどね。


 なるほどね、と納得したところで、山のような草の上に、さらに草が追加される。

 追加したのは、私と同じか少し年上くらいの子供たちだ。どうやら彼らが草を摘んできているらしい。


 というか、子供いるんだね。全滅というわけではなかったんだ。

 顔つきは、想像していたよりも健康そう。不健康な子は手伝いに参加していないだけなのかもしれないけど。


 それから、ぐるりと見回した感じ、集会場の女性たちもそこまで顔色は悪くない。だいぶ痩せてはいるけれど、今にも倒れそうという人はいない感じだ。

 年齢は、おおよそみんな二十代から三十代。最年長でも、六十には届かないというくらい。全員足腰はしっかりしていて、開拓地に似合いの力強い顔つきをしている。


 これのなにを見ているかというと、村人の健康状態だ。さらにはっきり言ってしまうと、今すぐ死にそうな人がいないかどうかの確認である。

 一人も死なせず冬を越えると言った以上、少なくとも来年の春までは、全員に生き延びてもらわなければならない。なのに、すでに寿命目前、あるいは病気で明日も知れない身という村人がいたら大問題だ。大急ぎで夜逃げの準備をしなければならなくなる。


 もっとも、ここについては考慮したうえでのハッタリではある。

 開拓地に好き好んでくるのは、だいたい若くて健康な人間だけ。年齢制限をかけていたかまでは把握していないものの、足腰が立たないほどの高齢者はいないと思っていた。

 常に医者が必要な、病弱な者も開拓には挑まないだろう。虚弱体質ですぐに倒れるような人間も、過酷な体力仕事である開拓地に来るとは思えない。


 そしてこれは、あまり大きな声で言うべきことではないのだけど、実のところ体力的に冬を越せないような人々は、たぶん先般の病気にも勝てなかっただろうとも踏んでいた。

 今も村で生活しているのは、病気を乗り越えるだけの体力のある者ばかり。不慮の事故でも起きない限り、食糧と防寒対策さえすれば生き残れるはず。だからこその、あの宣言だったのだ。


 今日の様子見は、その確認も兼ねている。村人の顔色を見て、病気や怪我で寝たきりの人物がいないか探りを入れ、まずは現状把握。

 その結果、もしも病気の人間がいたら――。


 …………いたら、どうしようね?


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