22.村人の悩みを聞いてみよう(2)
別に私は探偵ではないので、出し惜しみせずこのあたりで白状すると、実のところプランター荒らしの犯人は九割九分アントンだと思っている。
自分で第三者の存在を示唆したはいいものの、正直なところ私自身がその可能性を信じていない。
もしも第三者がいるとすれば、状況的にアントンの目の前で大暴れしたということになる。そんなことをする理由がわからないし、アントンがそれを黙っているのも理解できない。あれだけの暴れようであれば、熟睡していても目を覚まさない方が不可解だ。
あるいは、アントンが用でも足しに外に出ている間の出来事か。
そうだとしても、戻ってきて惨状に気付いたのならすぐに人に知らせるはず。呆然と土の中に立ったまま朝を迎えるようなことは、まったくないとは言わないまでも、普通に考えてほぼありえないだろう。
なので、アントンが真犯人に脅されたとか、なにかよほどの入り組んだ事情がある場合を考慮しても、可能性としては一分以下。たとえ第三者が犯人だったとしても、アントンに隠し事があるのは間違いないだろう。
こうなると、第三者が犯人であろうと、アントン自身が犯人であろうと、普通に話を聞いて答えてくれるとは思えなかった。
さて、ここからはただの憶測。確証のない、私が見聞きした範囲での単なる想像。
だけど考えないわけにはいかない、『アントンが犯人だとして、いったいどうしてプランターを荒らさなければならなかったのか』という点についての推察だ。
まず大前提。
村の食糧は、そろそろ年末という今もなお食糧の危機に瀕している。
計算上、数日ほど我慢を重ねればギリギリで冬を越せるだろうという見込みではある。だけど、厳冬期が長引くか、想定以上に瘴気の濃い状態が続けば怪しくなるという状況だ。
そんな折に開始した温室栽培は、なんだかんだでかなり重要度が高い。同じく備蓄がギリギリの薪を、追加で消費してでもやるだけの価値がある。
このことは、いかに目先のことに捕らわれがちな村人たちでも重々理解しているようだった。
温室栽培のために部屋を追い出されたことに文句は言えど、栽培自体への不満は出ていない。
冬場に作物が得られる可能性に、むしろ村全体から期待を寄せられているくらいだった。
アントンも、それをわかっているはずだ。
これは、『ごく潰し』を自称するアントンが村の食糧生産に貢献する機会。怪我を負って以降満足に体を動かせず、誰かが得た食糧を受け取る他になかった彼が、再び自分の価値を示すまたとない好機なのだ。
きっと、気負うことだろう。熱が入ることだろう。
この機会を逃すものか、失敗してなるものかと、力を入れて取り組むことだろう。
上手くいかなかった時の落胆は、入れ込んでいればいるほど大きいだろう。
そして、これは同じく体の不自由なもう一人。
偏屈老人トーマスについても言えることである。
憶測終了。
ソファの上で、私は気付かれないように溜息をつく。
――……こういうの、あまり得意ではないのだけど。
諍いの仲裁もまた領主の役目。特に犯罪行為の最終処分は、領主の名において下されるものだ。
つまり、裁定の結果は領主の責任。妥当な裁定を下せなければ領民の不信感を招くのみならず、施政者としての株を落とす行為にもなる。
なのでまずは、両者の言い分を吐き出させるところから。
特にこの、無口で引っ込み思案な男の口を割らせる必要があるだろう。
さて、どうやって本心を探り出すべきか。
魔物の遠吠えを遠くに聞きながら、私は縮こまるアントンを探るように窺った。