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21.踏みにじる足跡(1)

 大急ぎで駆けつけた一階、応接室。

 現在は温室として使用されているその部屋の前で、私は苦い顔で腕を組んでいた。


 私の目の前に広がるのは、見るも無残な光景だ。

 吹雪のために鎧戸を下ろした暗い部屋。燃え盛る暖炉の火と、壁に据えられた燭台の光が照らす先。


 本来なら部屋で一番日当たりのいい窓の真正面には、横倒しになった四つのプランターがあった。


 長方形のプランターは大きく、深く、結構な重量がある。

 それが四つとも全部倒され、こぼれた土が無残に床を汚しているのである。


 しかも、その土の上には無数の足跡までもが残っていた。

 大きさからしておそらくは同一人物。土の上を何度も往復するような、執拗に踏みにじるような足跡だ。

 植えられていたカブもまた、そのほとんどがこぼれた土とともに踏みつけられていた。

 運よく足を避けられたのは数株程度。他はすっかり傷ついてしまい、もう植えなおしても回復は期待できそうにない。ようやく根が膨らみ始めていたというのに、ほぼ全滅というありさまだった。


 ――……ううん、まいったわね。どう見ても意図的よね、これ。


 重たいプランターは、「たまたま足が当たった」程度では倒れない。

 誰かのうっかりミスという線は確実にないだろう。

 土の上を何度も往復しているあたり、犯人の執拗さもうかがえる。おそらく「ちょっとしたいたずら」で済む問題でもなさそうだ。


 そのうえ、私を呼びに来た雑用係の話によると、昨日までは特に異常がなかったというのである。


 今ではこの部屋は、すっかり温室兼雑用係の作業場所。昨日も雑用係の顔ぶれ全員が集まり作業をしていたという。

 彼らは革の加工を終えると、いつものように水をやり、いつものように寝ずの火の番を一人立て、いつものように残りの人間は出て行った。

 そうして、いつものように迎えた朝。

 昨日の作業の続きをしようと再び部屋を訪れた彼は、この惨状を目の当たりにしたのである。


 つまりどう考えても夜間の犯行。

 そして、この部屋には温度管理のための寝ずの番が必ず一人残っている。

 この寝ずの番は当番制。四人の雑用係が、一日おきに交代する。


 そうなると、誰が犯人候補になるかと言えば――――。




「――――おいアントン」


 踏み荒らされた部屋に低い声が響く。

 部屋にいるのは、駆けつけてきた私。私を呼びに来た雑用係の一人。それから、私より先に部屋にいた、残る雑用係の他三人。


 そのうちの一人であるトーマスが、いつもに増して険しい顔でアントンを睨みつけた。


「昨日の火の番はお前だっただろう。これはいったいどういうことだ……」


 こうなってしまうのである。

 いやあ……まいったねこれは。

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― 新着の感想 ―
ええ…何でアントン?3重の意味で。 まず動機がわからん。足りない食料補うための実験栽培だから自身の生存に直結する事業なのに何で妨害を…? 次にアントンの足ってトーマスより重症でろくに動けんのじゃな…
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