表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
129/235

17.厳冬期を迎えよう(4)

 集団パニック。

 それはホラーにおける大定番。

 閉鎖環境、逃れられない死の恐怖、日に日に悪化していく状況に、少しずつ追い詰められていく人々。


 その結果起きるのは、民衆の暴走だ。

 極限状態において無辜(むこ)の人々が悪鬼に変わる。人々はいがみ合い、疑心暗鬼に陥り、わずかなきっかけから暴動が起きるだろう。あるいは奇妙な宗教が興り、あるいは怪しげな指導者が現れ、あるいは狂気に陥り無差別に他者を襲い、あるいは地獄絵図に耐えられず自ら死を望むことになるだろう――。


 というのは、ホラーゲームでは親の顔より見た展開。

 本当に怖いのは、悪霊よりもゾンビよりも、結局人間なのである。


 いやまあ、実際にこんなことが起きるかどうかはわからないけどね。

 村人たちが思った以上に理性的で、粛々と冬を耐え抜いてくれる可能性はもちろんある。粛々と耐えられない人がいても、ごく少数なら周りがなだめすかせてなんとか持ちこたえられるだろう。


 でも、そうでない可能性もある。

 この可能性が捨てきれない以上、私としては手を打たないわけにはいかなかった。


 さて、それでは一番重要な話。

 懸念点が明らかになったところで、どうやって対処するべきか?

 それも、すでに外出が不可能な状況。今さら採れる手段はあるだろうか?


 答えは、『ある』――――かもしれない。

 ないかもしれない。正直ちょっと自信がない。


 自信はないけど、一応考えていることがあるにはある。

 降雪の早さについては前々から気になっていたところ。なにか対策が必要だろうかと考えて、ちょっと前に『念のため』で保険をかけていたアレである。


 ただまあ、確実性が全然ないんだよね、これ。

 頭の中では『できるかも?』とは思いつつ、実際のところはやってみないとわからない。あんまりにも手探りなので、これを解決案として出すには不安が残る。


 なので、ちょっと今のうちに試しておきたい。

 実用に足るかどうかの試運転。まだ村人たちが自分たちの仕事に忙しく、不安を感じる時間すらもないうちに、いろいろとやれることをやっておこうと思っていた。




 はいじゃあここで、協力してくれる皆様のご紹介。

 このうすらぼんやりとした実験のために、手を貸してくれる人物はと言えば――。


「で~~~~ん~~~~か~~~~~~!!!!」


 まずはおなじみ、そして久しぶりのヘレナさんです。


「いきなり連れてこられたと思ったら、なんですかこれ!? えっ、これ本当になんですか……!?」


 と大混乱のヘレナが立っているのは、屋敷の外にある物置小屋だ。

 凍える寒さの小屋の前で、彼女はなんとか掴んできた外套を羽織りつつ肩を震わせる。


「いつもいつもそうですが、なにをされるつもりか説明してくださいよお! だいたい私、今は子供たちに勉強を教えているところだったんですよ!?」

「私も、厩で作業中だったんですがねえ……」


 ヘレナの隣で諦めたように溜息をつくのは、こちらも久しぶりの御者モーリスだ。

 作業中だったという言葉通り、厩の掃除でもしていたのだろう。あちこちに干し草をくっつけたまま、彼はどこか恨みがましい目で私を見る。


「殿下の突飛な行動にはもう慣れっこですけどね……。こちらにもいろいろと予定や計画というものがありましてね……」


 あーあーあー、聞こえない聞こえない。

 私は物置小屋を漁りつつ、仕事中に問答無用で連れてこられた二人の言葉を適当に聞き流す。


 彼らにも仕事はあるのはわかっているけど、なにせこっちの方が最優先だからね。

 他の村人たちは忙しいし、休暇中の護衛たちや狩人たちは安静中なので頼めないしで、労働力として駆り出せそうなのが彼ら二人しかいなかったのだ。


 なので強制連行も致し方なし。ついでに、労働力以外のオマケがついてきてしまったのも、今回ばかりは仕方のないことなのだ。


「なになになに? 今日もう授業終わり? それとも課外授業?」

「ヘレナ先生、あの、今のうちに質問が」

「ねー、せんせー! おれおしっこー!」


 授業中に連れ出されたヘレナを追いかけ、これまたきちんと外套を着た子供たちが口々に声を上げる。

 うーん、やかましい。トビーはさっさとトイレに行くように。


「――――っと、あったあった。ヘレナ、ほらこれ持って」


 子供たちの最年長であるケイティによって、トビーがトイレに連れていかれるのを横目に、私はヘレナへと物置で見つけた道具類を放り投げる。

 類、というからにはもちろん一つ二つではない。

 ぽいぽい投げるのは、バケツにスコップ、麻袋、それから作業用の手袋と――――。


「………………空の植木鉢、ですか?」


 モーリスとともに慌てて受け止めた道具類の最後の一つ。

 今は未使用の植木鉢を手に、彼女は不思議そうにつぶやいた。


「本当に、いったいなにをなさるつもりなんですか、殿下?」


 さあねえ、なにをするんだろうねえ。


 まあ、ピンとくる人にはすぐにピンとくるとは思う。

 でも上手くいかなかったら恥ずかしいので、答え合わせはまたあとで。


 とにかくこれらを持って、今度はうっすらと雪の積もる前庭に出てみよう。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ