17.厳冬期を迎えよう(2)
ちょっと算数。
キリキリ働かせる前に、しかし一度再確認。
村における現時点での問題を、改めて見返してみようと思う。
まずは解決した、あるいはこれ以上手を打つ必要がないと考えられる問題について。
これは第一に、薪の問題が挙げられる。
今から大急ぎで加工する必要はあるものの、薪の材料である木材は現在十分な量が蓄えられている。
計算上はこれで厳冬期を乗り切れるし、さらに少し持つだけの余裕もあるはずだ。
もちろん、これで本当に足りるかどうかは気温次第。予想以上に寒くなれば、薪の使用量も増えるもの。多少の余裕程度、食いつぶされる可能性も出てくるだろう。
まあでも実際、私はこの点に関してあまり問題視をしていなかった。
だって薪ならいくらでも節約のしようがあるからね。
薪の使用量が多いのは、使用する部屋数が多いからだ。
部屋ごとに暖炉を燃やしていれば、それぞれで薪を使う。となると、解決策は簡単。薪の残量が怪しくなったら、大部屋に村人全員を集めて暖炉の使用を一か所にすればいいのである!
いやー、まーた信頼度が下がりそう。
でも凍死するよりは、信頼度を犠牲にした方がはるかにマシ。村人に嫌われるなんて今さらだし、いざとなったらみなさんには大部屋すし詰め生活を味わってもらいましょう。
ということで、薪については在庫管理さえしっかりしていれば大丈夫。この問題は、いったんクローズしていいと言えるだろう。
次に、人手不足の問題もクローズできる。
今は忙しくしているけれど、それもあと二週間足らず。その後はむしろ、どんどん人手が余っていくことになるだろう。
それに今の時点でも、村人たちは全員屋敷の敷地内にいる。用事があればすぐに呼べるし、一時仕事を離れて別の仕事を手伝う、ということもやりやすい。屋敷内労働が中心だった家事・育児組も雑用係も、おかげで少し気が楽そうだ。
外套不足についても、外出禁止に伴い解決したと言えるだろう。
今後は屋敷の外に出る機会も減り、外套を着ることも少なくなる。今までのように革のなめしも甘いまま、スピード重視で粗悪な外套を作る必要はなくなったのだ。
これからは、じっくりなめしてしっかり乾燥。きちんと使い物になる革に仕上げて、それから加工の流れになる。
革がなめされるまでには時間がかかる。雑用係の革細工仕事も、こうなるとしばらく休業だ。いい革ができるまで、彼らには来年用の靴の型紙でも作ってもらうことにしよう。
あとは不本意ながら、魔物対策も今後は考える必要はなくなった。
これから年が明けて瘴気が薄れるまで、もう村には降りられない。となると、魔物の侵入対策としてあれこれしていたものも不要になる。
瘴気が薄れれば、今度は魔物が草原から姿を減らしていくはずだ。
どれほど危険と言われても、彼らもやはり野生動物。本来であれば、好んで人里には近づきたがらない。今の状況は、瘴気による活性化と数の増加によるイレギュラーだ。
きっと来春以降は、今のように頻繁に魔物を見ることもなくなるだろう。
最後に、村人からの反発に関して。
特に食糧庫の件については、私は落ち着いたと見ている。
昨日の一件で、食糧の供給がいつ途絶えるかわからないことを村人たちは実感した。
なにが起こるかわからない冬。私が食糧をため込み必要以上に使わせないのは、こう言う場合を見越してのことだと理解してくれたのだろう。
あと単純に、毒抜き作業が延々終わらないことで、私がきっちり肉をため込んでいることが証明された。
こっそり盗み食いしているのでは――という不名誉な疑惑は、これにて解消である。
で、ここからは未解決の問題点。
第一に上がるのは、なにを差し置いてもやっぱり食糧問題だろう。
結局、食糧は集めきれなかった。
例の数字に換算すると、現在の食糧の備蓄は『2172』。これに、昨日狩人たちが回収してきた魔物肉を含めて、ざっと『2202』といったところだろうか。
厳冬期の終わりを二月末と考えると、屋敷に閉じこもるのはおおよそ『102』日ほど。食糧の必要量は、『2346』となる。すなわち足りないのは『144』。
厳冬期が明けてすぐに外に出られるとしても、約七日分の食事が足りていないことになる。
さて、ここで気になる別の問題が一つ。
そもそもの話、果たして私たちは厳冬期が明けてすぐに外に出られるものなのだろうか?