16.【実績解除】雨降って地固まる? -低信頼度イベントをクリアする
今回の騒ぎでの被害は、重傷者二名、軽傷者七名。
軽傷者の内三名が護衛たちで、残る四名が村の狩人たちである。
怪我の程度は、火傷に打ち身、いくらかの出血。数人ほど軽い骨折。まあ、しばらくは使い物にならないとみていいだろう。
同じ時刻に村に出て、解体作業をしていた他の男衆には、幸いにして魔物の被害はなかった。逃げていく魔物を見かけたという証言もあったけれど、魔法発動後だったこともあって、わき目も振らずに去っていくだけだったという。
とはいえ、魔物が出てしまったからにはそれ以上作業を継続させるわけにもいかない。
作業は中断。今日限りで村は閉鎖。瘴気が薄まるまでは立ち入り禁止。
護衛たちは道中も最大限の警戒をしつつ、怪我人を抱えて村人たちとともに屋敷へと戻って来た。
幸いにして、今日は薪集め――もとい木材集め三日目。前二日でかなりの量の木材を回収しているため、ここで薪集めを終えてもそこまで致命的な問題はない。
いざとなったら、屋敷内には木箱や棚がある。ベッドや椅子、テーブルのたぐいも多い。これらを解体すれば、この冬いっぱい持ちこたえることはできるだろう。
さらに、今回の出来事で、思いがけず得られた成果がある。
被害に対して収支はまったく釣り合っていないものの、なにもないよりは多少マシ。むしろこんな事態でもなければ得られなかっただろう、その成果とは――。
「――――これが魔法発動後。これが発動前」
狩人が眠りについたのを見届けて、アーサーとエリンにも一度意識を取り戻したことを報告したのち、やってきたのは厨房だ。
すでに夕食も終え、厨房の火は絶えている。凍り付くように寒いその場所では、炊事係の女衆が皿や鍋の片付けのために忙しなく立ち働いていた。
現在、私はそんな厨房の片隅で、鼠の死体を見せられていた。
鼠と言っても、大きさは約一メートル。尻尾だけでも蛇くらいの大きさのある巨大サイズだ。
これはもちろん、魔物である。
そしてその魔物を指で示すのは、ベッドで寝ている狩人の仲間たち。その中でも特に軽傷で、安静の必要もないと診断された者たちだ。
彼らは手当てを終えたあと、厨房の裏手へ向かったのだという。目的は、あの騒動の中でちゃっかり回収していた魔物の死体。その解体のためだった。
いやあ、このあたりはさすが狩人と言ったところ。
護衛たちは人々の避難優先で、倒した魔物もそのまま放置だ。対する狩人は、『獲物』をそのまま捨て置かない。怪我人を介抱しつつも、きっちり血抜きまでして持って帰ってきたのである。
そうして回収した魔物と言うのが、数にして六匹。
それを更に二匹と四匹に分け、狩人は順に指をさす。
「すでに内臓は出している。そのときに気付いたんだ。こっちの二匹はいつも通りだったけど、そっちの四匹は中から変なものが出た」
「変なもの」
と私が言うより先に、狩人が明かりを置いた机の上に小さな欠片を転がした。
本当に小さな、砂粒よりは少し大きいという程度のなにか。思わず手に取って光に透かして見て――おや、と思う。
よくよく見なければわからないけれど、わずかに光っている。燭台の火を反射しているのではなく、その欠片自体が、だ。
「これ……魔石!? ちっっっっちゃ!!」
いや、ほんっとうに小さいな!?
魔石そのものよりも、こんな大きさの魔石があることにびっくりするわ。
なるほど、このサイズならたしかに魔法の威力も低いわけである。魔物が若くて体内で生成される魔石が未熟だったのか、あるいは魔物の大きさに依存しているのか。なんにしても、やっぱり今回の被害は運が良かったということだろう。
しかしまあ、さすがにこの大きさは使い道はなさそうだ。
これじゃ加工のしようもないし、万が一加工できたとしても肉眼で見えないレベルの大きさになってしまう。装飾品としては売り物にならないということだ。もったいない。
できるとしたら、せいぜい魔石学者あたりに払い下げるくらいかな?
魔石自体は希少品だし、学者ならかえって珍しがってくれるかもしれない。まあ学者なんて金払いがいいものでもないので、やっぱり売り物としての価値は今一つではあるけども。
とまあ、ひたすらに金の話を考えてしまったものの、今回の主眼はそこではない。
大事なのは、小さかろうが『魔石が出た』という事実の方である。
「魔石が出たということは、あれだろう? こっちの肉は蛮族たちが獲っていたような良い肉なんだろう?」
そう。
おそらく魔石が出たという四匹は、いつもよりも毒抜きが少なくて済む肉のはずだ。
要するに、旨味の抜けない美味しい肉。
鼠の肉というと少々抵抗があるけれど、実のところ我がセントルム王国内でも食用にする地域はそこそこある。今は文句を言っていられる状況でもないし、大きさ的にも捨てるなんてもったいない。もちろん、ありがたく食べさせてもらうに決まっている。
「皮を剥ぐ前に伝えておこうと思ったんだ。肉になったら、もうどっちがどっちだか見分けがつかなくなる。これをいつものように毒抜きしたんじゃ、もったいないからな」
言いながら私を見下ろすと、狩人たちはどこか力なく苦笑した。
互いに顔を見合わせる彼らの表情は、少しばかり居心地が悪そうだ。たぶん今回の一件は、ベッドで寝ている彼だけではなく、居合わせた狩人たち全員にとって痛い出来事だったのだろう。
彼らの顔に浮かぶのは、後ろめたさと後悔の色。やるせなさ、情けなさ、それから――。
「どう使うかは、領主のあんたに任せる。…………今すぐ食わせろとは、もう言わねえよ」
そこはかとない申し訳なさをにじませて、彼らはそう言って小さく首を横に振った。
【信頼度】
○○○○○
→●○○○○