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15.村人の信頼度が低いと命令を聞かないことがあるぞ(4)

 というわけで、一応全員生きている。

 無事かどうかは危ういけれど、誰も命に別条がない。というか、こっちだってそう簡単に死なせるような命令は下さない。


「騎士は魔物討伐の本職よ。さすがにあんな小さな魔物相手に遅れは取らないわ」


 いくら私と一緒にノートリオ領送りにされるような左遷騎士でも、彼らはれっきとした元騎士だ。

 むしろ左遷されるということは、コネ入団の貴族令息たちとも違う。剣を握ったこともない名ばかり騎士よりはいくらかマシな、最低限戦える人間たちである。


 先住民たちに敵わなくとも、魔物と対峙する経験は人よりも積んでいる。危険に立ち向かう覚悟もある。人を守って戦う矜持も、たぶん持っている。

 しかも今回は、別に狩猟しようというわけでもないのだ。


 私が彼らに下した命令は村人たちを守ること。

 魔物については言及していない。別に仕留める必要もないし、追い払ってもいいし、不利だと思えば逃げたとしても問題ない。

 さらに、数は多いとはいえ相手は小型の魔物。以前のように準備もなく魔物に襲われたわけでもなく、大型の肉食獣型の魔物でもないときた。

 これだけの条件がそろっていれば、割とどうにでもなるものである。


 ――まあ、さすがに無傷というわけにはいかなかったみたいだけど。


 とちらりと視線を向けた先で、カイルが居心地悪そうに曖昧に笑う。

 魔物相手の戦闘が一番得意だったことが災いし、最前線で戦った彼は護衛の中で一番の被害をこうむった。

 全身の裂傷に咬傷、爆発による火傷。建物の倒壊を避け切れず、したたか肩を打っての骨折。転倒して打撲。彼もまた、隣のベッドでしばらく絶対安静である。


 護衛たちの話を聞くに、一番の危機は最初の魔法の爆発だったという。

 一匹目の魔物は魔法を放つ前に仕留めたものの、空き家に潜んでいた魔物たちを止めるのは間に合わない。狩人たちはその場から動けず、護衛たちは強引に彼らを引っ張って地面に叩き伏せたのだそうだ。


 今ベッドで寝ている彼以外の狩人は、おかげで直撃を免れた。

 空き家の一番近くにいた彼だけは間に合わず、魔法を真正面から受けてしまったのだ。


 幸運だったのは、解体途中とはいえ建物を挟んでの爆発だったこと。ノートリオ領の冬は冷たく、防寒具がかなりの分厚く丈夫なことだ。

 建物の壁が威力を軽減させ、全身を覆う防寒具が衝撃を抑えてくれた。こればっかりは、幸運だったと言うしかないだろう。


 魔法を放てば、魔物は攻撃性を失って逃げて行く。

 今回は狩猟が目的ではないため逃げる魔物たちは見逃して、護衛たちは残る魔物の対処を優先した。

 数は多いが小さな魔物。魔法の威力もそこまでではない。周囲には物陰も多く、魔法を防ぐ手立ても多い。慎重に対処していけば、ほどなく追い払うことができた。


『おかげで、「魔法発動前」に仕留めるという感覚が分かった気がしますよ。怪我の功名というやつですね』


 とは、ボロボロになって戻って来たカイルの言葉。なーにが怪我の功名じゃ。

 他の護衛たちも大なり小なり怪我を負っていて、治るまで護衛任務に戻れそうにはない。治療最優先で安静を言いつければ、『やれやれやっと長期休暇だ』と、こちらも悲壮感なく解散していった。なんとも図太い男たちである。


 他の狩人たちも、すでに診療所での手当てを終えて解散済み。

 彼らも頭やら膝やらを強かに打ち付けているものの、やはり命に別状なし。今しばらくの安静は必要だろうが、後遺症などの心配もないようだった。

 ぼそぼそと聞こえる声は、今までほとんど患者のいなかった診療所にいきなり怒涛の急患があり、疲れ切ったアーサーの吐く弱音である。


 そんなこんなで、まあまあ被害は出たものの、『最悪の事態』は避けられた。

 魔物を相手に死者はなし、重傷者二名で済んだなら上出来だろう。護衛たちは十分に『役目』を果たし、仕事を『全う』したと言えるだろう。


 これらの言葉は意味通り。

 私としてはなんの裏もなく、ありのまま状況を伝えただけなのである。


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