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後輩と先輩 / 空手形競技 / 文化祭 / 女装喫茶店 / 現代日本




 無地の光沢のある銀色のナローネクタイ、無地の黒シャツに黒スーツ、黒のストレートチップの革靴によって、スタイリッシュに仕立てられたホストがあなたたちを丁寧に慈しんでエスコートします。




 強さだけが取り柄で、部活動以外は、外見も性格も態度も言動も粗雑で自堕落で他人任せの虎司とらじ先輩のクラスが文化祭で女装喫茶店をするというので、普段パシられている仕返しをしてやろうと冷やかしに行ったのだが、姿は見えず。

 虎司先輩の友人のらん先輩に尋ねてみたら、休憩に行ったとの事。


「虎司が戻って来るまで待っていたら? お兄さんがメロンソーダを奢ってあげるよ」

「あざーっす」

「虎司を待っているのかい?」

「え?」


 俺はその先輩を見た瞬間、心を撃ち抜かれてしまった。

 スタイリッシュだった。

 蘭先輩もそれはもスタイリッシュだったけど、その先輩ほどスタイリッシュという言葉が似合う人類はいないと断言できるくらい、スタイリッシュだった。


「はわ。はわわわわわ」

「はわ? ハワイアンブルーのかき氷を注文したいのかな?」

「は………はい」

「ご注文を受け賜りました。少々お待ちください。しゅん様」


 スタイリッシュな微笑を浮かべてスタイリッシュなお辞儀をしたその先輩は、スタイリッシュにカーテンの向こうへと去って行ってしまった。


「ら………ららららら蘭先輩。あ、あああああのスタイリッシュな先輩の名前は何と仰るのでしょうか?」

「ええ? どのこの事を言っているんだろうなあ。ここにいるホストは全員スタイリッシュだしなあ。ん~~~」

「あ………すみません。俺なんかに名前なんて教えられませんよね。俺。全然スタイリッシュじゃないですし。虎司先輩のパシリですし。ここに来た目的も虎司先輩をからかいにくるという外道ですし………俺、スタイリッシュになって出直してきます!!!」

「あっ。ちょ。おーい。あららら。からかい過ぎちゃったかなあ」


 教室から飛び出して行った峻を見送った蘭は、歩き出してはカーテンの向こう側、調理場へと入って行った。


「虎司。ごめん。からかい過ぎちゃって、峻、出て行っちゃった」

「ああ。まあ。どうせ俺をからかいに来ただけだろ。あいつ」


 自動かき氷機でかき氷を作り終えて、ハワイアンブルーのシロップをかけようとしていた虎司は、ニヤリと笑った。


「ハッハ。あいつ。俺だと気付いていないようだったな。カッカッカッ。実に痛快愉快。あとでこの姿であいつのところに行ってからかってやる」

「いやあ。止した方がいいよ。虎司。少年のいたいけな恋心をかくも無残に散らしては気の毒すぎる。多分、初恋だし」

「あ? 何言ってんだ? 蘭」

「いやあ。まあ。とにかく。君は峻を探しに行っている時間はないでしょ。サボりまくったツケを今回の完璧なスタイリッシュホストをこなす事で払ってもらう約束なんだから」

「へいへい。面倒極まりないが、約束は約束だ。開店から閉店まで完璧なスタイリッシュホストをこなしてみせるぜ」

「うんうん。ところでさあ。虎司」

「何だ? このかき氷、食っていいか?」

「うん。食べながらでいいから僕の質問に答えてもらおうか?」

「ああ。何だ?」

「峻を本当にただの便利なパシリだって思ってるの?」

「違うな。便利で見込みのあるパシリだと思っている」

「パシリは否定しないんだ」

「今はまだパシリだが。まあ。そうだな。あいつの形競技もそろそろ様になって来たし。パシリから卒業だな。便利だけどなあ。あいつ。ついつい甘えちまって。いかんなあ」

「甘えた分はしっかり返してやんなよ」

「おう。きっちりかっちし卒業まで面倒見てやるよ」

「ん~~~。まあ。まだまだ春は遠しってところだねえ」

「当たり前だろ。今は夏だ」

「うんうん。じゃあ。そろそろ戻ろうか」

「ああ」


(………ん~~~。峻には申し訳ないけど。面白い事になりそうだなあ。まあ。これを機に何かが動き出すかもねえ)


 蘭は虎司の背中を見つめてのち、くふふと笑みを零したのであった。











(2025.7.15)




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