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大学一回生 / 知り合い以上友達未満 / 珈琲 / 現代日本




 大学に入学して早一か月と半月が過ぎた。

 涼しさとおさらばする季節に突入して、服装もより軽やかなものになるわけだが。

 前田まえだは隣の席の佐久間さくまを一瞥した。


 上下紺色のスーツに、チェック柄のオーソドックスなダービータイより大剣の幅が細身のナロータイを、今日のように暑い日でも涼しい顔で着てきている同回生の男子である。

 多分、一回生だけが受ける講義に居るので同じ年齢だろうと思うが、大学生の中には色々な年齢の人間が居ると姉が言っていたので、同じ年齢とは限らないと思いつつ、タメ口を改めようとはしなかった。

 ほぼほぼ同じ講義を受けているし、自己紹介も済ませたし、話しもするのだが、連絡先は交換してないし、大学以外で会ってもいないので、知り合い以上友達未満なのである。




「なあ。おまえ一年中その格好で大学に来るのか?」


 この教室は次の講義がない事を知っている前田は、パン屋で買ったあんぱんとカツサンドを狭い机に置きながら佐久間に話しかけた。


「夏は流石にスーツは着てこないけど、紺色のシャツにチェック柄のネクタイは欠かせないかな」


 佐久間もまた、かつ丼を狭い机に置きながら前田に答えた。


「イギリスの学生に憧れてんだっけ?」

「ああ。一度だけ俺の家にショートステイで留学生が来てさ。高校生の時だけど。紺色のスーツ姿がすっっっげえ、かっこよくてさ。高潔、騎士って感じでさ。高校は制服があって着られないだろ。大学に行ったらぜってえ毎日着ようって決めてたんだ」


 ちょっとお湯注いでくる。

 佐久間はそう言って、カップみそ汁を持って教室から出て行った。


「まあ、確かに、カッコいい、けどなあ」


 あんぱんを食べ終えて、カツサンドへと手を伸ばした前田は俺も一回くらいは、大学に行っている間に着てみようかと思った。


「そうしたら、あいつみたいに、そこはかとなく匂い立つ色気っつーのが、出てくる。か?」


 いやあいつだからこそ匂い立つ色気、か。


「はあ~~~。やだやだ」


 やおら首を左右に振った前田は、ガガガッと勢いよくカツサンドを食べ終えたのであった。






「ほい」

「あ?何だこれ?」


 狭い机に置かれた紙カップの中身は色黒い液体だった。

 珈琲の香りがするので珈琲だとわかったが、前田は紙コップを置いた佐久間にとりあえず訊いた。


「珈琲。食堂に大学生主催の出店があったから買ってみた」

「オレ、コーヒー、ノメナイ」

「何でカタコト?」

「気にするな。おまえが飲めよ」

「イヤ、オレモ、コーヒー、ノメナイ」

「スーツに珈琲はつきものだろうに」

「偏見だ。と言いたいが。確かに。俺はスーツの似合う男にも、珈琲の似合う男にもなりたいからなって。おい」

「う~ん。まずいもう一杯」


 一気に珈琲を飲み干しては顔をしかめる前田を、佐久間はジト目で見た。


「おい」

「いや、急に惜しくなった。飲むなら買って来るぞ」

「おう。頼む」

「おう」


 牛乳と砂糖をたっぷり足したやつをくれてやろう。

 そう目論みつつ、前田は教室を後にした。


「スーツの似合う男の座は潔く譲ってやるがな。珈琲の似合う男は、譲らん」











(2024.5.19)




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