社畜が語るマリトッツォライフ②
『ねぇ見てよぉ。僕たちの写真撮ってるよぉ。これこそJKだねぇ。かわいいねぇ』
『ああ、はい。そうですね……』
絵に描いたような生返事を披露した俺は今、全力で頭を働かせている。何のためにかって? このイチゴデュフ男をどうやってユカちゃんに食べさせないようにするかを考えているのさ。
もちろんそれが正しいことじゃないのは分かっている。イチゴデュフ男も食べ物、マリトッツォの飾り付けのイチゴとして転生したのだから、ユカちゃんに食べてもらう権利は十分あるだろう。
だがそれは……それは俺が納得できないのだ! 自分勝手な話なのは分かっている。分かっているが、それでもユカちゃんにコイツを食べて欲しくない!
というわけでさっきからあれこれと考えているのだが……。
『……何ができるのか分からんっ!』
食べ物に転生してから何度も感じていることなのだが、何ができて何ができないのかが全く予想できないのだ。これならできそうだと思ったことができなかったり、逆にこんなことができるわけないと思ったことがあっさりできたりする。
要するに実際にやってみるしかないというわけだ。とりあえず体に力でも入れてみるか。どこか動かせるかもしれない。
『ふんっ』
『うわぁ!? ちょっとなぁにぃ? なんだかクリームがモゾモゾしたよぉ。変な感じぃ』
ふむ、クリームなら多少動かせるのか。いやしかし、動かせたのは内側の部分だけで表面のクリームは微動だにしてないんだよな。クリームなら全てが動かせる、というわけではないらしい。
うーん……もしかしてこれ「人間が見て違和感を感じない程度」のことならできる、とかだったりするのか? さっきクリームが動かせたのは中にある部分だけだったから、人間が外から見たとしても分からない。それにこの理屈なら、俺がタピオカだったときにちょっとだけ泳げていたことにも説明がつく。タピオカがミルクティーの中で漂っているのは別におかしなことじゃないからな。
なんだかそれっぽい結論にたどり着けたぞ。よし、この前提で作戦を立てよう。
「お母さん帰ってくるの待ってた方がいいかな?」
「いや、母さんは買い物して帰るから遅くなるって言ってたし……先に食べてていいんじゃないか?」
「そっか、ならそうしようかな。いただきまーす!」
なっ、もう食べるのか!? クソっ、作戦なんてまだ何も思いついていないぞ……! いや落ち着け。こういうときこそ一旦思考を整理するんだ。
イチゴデュフ男は飾り付けのイチゴの中でも1番端に配置されている。ならば1口目でコイツが食べられるということはないだろう。よし、まだある程度の時間はあるな。
『わぁ! 持ってくれたよぉ! いよいよだねぇ、楽しみだねぇ!』
あーうるさい! 考えがまとまらないだろ! 落ち着け、この状況からどんなことが起こり得て、どうすればイチゴデュフ男を食べさせないようにできる? 俺がスイーツを食べるとき、飾り付けのフルーツを食べないような状況といえば……。
「はむっ」
『あひゅうっ』
ぐっ、1口でこの快感かっ……! マリトッツォのふわふわの食感に合わせるような優しい食べ方。クリームが主体であるが故の唇が先行する食べ進め方は、そっとキスをされているような気分にさせてくれる。
まずい、心地良さで思考が飛ぶ。こんな状態ではまともに作戦を練ることなんてできないぞ。
「ん、クリーム落ちちゃいそう」
『っ!』
クリームが落ちちゃいそうだって? ははっ、なるほど! これが天啓ってやつか! ユカちゃんからすれば何気ない一言だったのかもしれないが、俺からすれば貴重なアイデアの種だ。この土壇場でこんなにも素晴らしいアイデアが降ってきたのだから、これはもう神の導きと言ってもいいんじゃないだろうか。
確かにそうだよなぁ、こういうクリームたっぷりのスイーツを食べていれば、クリームが少し落ちてしまうことくらいありえない話じゃないもんなぁ! そしてそこに運悪くイチゴが付いていることだって全然ありえる! よしっ、これで光明は見えた。残る問題は──
『わぁ! 次かなぁ!? 次こそ僕かなぁ!』
そう、今現在落ちそうになっているクリームは両サイドの2箇所がある。2口目としてこのどちらかが食べられるのだろうが、ここでイチゴデュフ男が食べられれば俺の負けだ。さあこの賭け、どう転ぶ……!?
「はむっ」
『はうっ……くぅ……ぃよっしゃぁ!』
よし、ユカちゃんが食べたのはイチゴデュフ男と反対側だ! だが喜びに浸っている暇はない。すぐに行動しなければ。
クリームを落としてしまう可能性が最も高い、かぶりついた瞬間。この俺の体の自由度が最も高くなるタイミングを利用して、クリームを……離脱っ!
『うわぁ!? ちょっとぉ!? 落ちちゃうよぉ!』
『すまないな! 俺もこうするしかなかったんだ!』
傍から見れば俺は完全な悪役だろう。しかしそれでもいい。イチゴデュフ男をユカちゃんに食べさせないようにできたなら、俺は誰にどう思われようと──
「おっと」
『ふぇ?』
『わぁ! よかったぁ! この子すごいねぇ!』
馬鹿な……落ちる直前にキャッチ、だと!? 凄いなユカちゃん、運動神経までいいのか。
じゃなくて、どうする!? このままだと結局イチゴデュフ男がユカちゃんに食べられ──
「ワフッ」
『『へ?』』
「わ、こむぎも食べたいの? ふふ、いいよ。それこむぎにあげる」
え、えーと、何が起こったのか整理しよう。俺が頑張って切り離したイチゴデュフ男を、ユカちゃんが膝の上ギリギリでキャッチ。するとそこに犬が駆け寄ってきて、イチゴデュフ男をパクリ、と。ふむ、なんというか……。
『ドンマイ』
『い、いやだぁぁぁぁ……!!!!』
あーらら。こむぎちゃん、あんなに嬉しそうに走っていっちゃって。イチゴデュフ男、こむぎちゃんと仲良くするんだぞ。
『あっはぁぁぁぁン!!!!』
なんだ、十分幸せそうじゃないか。まあ……なんだ。色々あったが幸せそうで何よりだよ。よかったな、イチゴデュフ男。
「あー、クリームで手汚れちゃったな。洗ってこないと」
ユカちゃんが席を外したことによってお預けを食うことになった俺だったが、はっきり言ってそんなこと今はどうだっていい。やはり何かをやり遂げるというのは気分がいいな。まあ褒められるようなことではないし、やり方も思っていたのとは随分と違った方向になったが。
『アンタ、なかなか見込みあるな。さっきの、いい感じに悪かったぜ』
『へっ?』
なんか変なヤツに気に入られたみたいです。
こむぎちゃん可愛い!




