7 敷物
案内板を探し出し、地図を頭に叩き込む。空間を歩くだけで入り組んだ建物の構造を覚えることは沙瑛には難しかった。
行きかう人々にぶつからないように、父の姿を見落とさないように。緊張感に蝕まれながら小走りに駆け出した。
父の後を着いて歩いていたと最後に記憶していた地点から、そのまま進行方向へ。駄菓子屋、違う。婦人服店、違う。アクセサリーショップにもいるとは思えない。何件覗いたのか数えるのを辞めた。
このまま進んで突き当たると、小さなゲームコーナーと上下階へ続くエスカレーターのあるあたりに行き当たる。そこまで行ってしまえば、父がどの方向に向かったのか知るのは段違いに困難になる。
どっと冷汗が流れ出す。肩から下げた小さなポシェットの紐を抑える手に力がこもる。ちらりと、父がよく着ている橙色とも茶色ともつかない上着の色が視界の端に映った気がした。
立ち止まり、そちらに目を凝らす。間違いない、父だ。雑貨屋の店先でなにか生地のようなものを見ている。
良かった。あとは気付かれないうちにそっと後ろにつけるだけだ。ここまでの捜索で息が上がってしまっている。父のそばに寄ったときに怪しまれてはいけない、息を凝らして忍び寄る。
そっと近くまでたどり着いたとき、父が振り返った。
「沙瑛、お前この二つどっちがいいと思う?」
「えっ!?や、ええと……こっちかな」
「うん?そうか、わかった」
心臓に悪い。見失っていたことに気付かれていたのかと危惧したが、急に話しかけられて驚いただけだと納得したらしい。
商品をよく見ることもせずに適当に答えてしまったが、一体父はなにを買おうとしているのだろうか。おそらく沙瑛にはあまり関係のないものだろうが。
父が見ていた棚に視線をやる。
そこには何の変哲もない敷物があった。
一体、どれとどれを提示されていたのだろうか。お世辞にもあまり趣味がいいとは思えない、沙瑛がこれまでの短い人生の中で触れてこなかった類の柄が並んでいる。
沙瑛の部屋に敷かれるものではありませんように。祈りながら、もう見失わないように父の後を追いかけた。




