6 迷子
三日目、昼過ぎ。
父と沙瑛はショッピングモールにいた。大きな目的は民宿に滞在するあと数日のための軽食や飲料を買い込むこと、ついでに何か本でも買ってもらえないか期待しつつ父の後をついて歩く。
今回の転居に合わせて新調する物もあるらしく、父は数店舗回って品物を吟味している。沙瑛にとってはあまり興味をそそられる買い物ではないので、どこかで座って待っていてはいけないものか思案し始める。
そういえば、このモールの入り口には子供用のキャラクターカートが置いてあった。あれに乗って父が行きたい場所に勝手に連れて行ってもらうのでもいいな。これまでに一度も乗ったことがないし、キャラクターに惹かれるわけではないが乗れるものならただ黙って父を追いかけるよりもマシだ。
集中して買い物を続ける父でも流石にあの派手なカートを忘れて移動していってしまうことは無い……と、思いたい。
考え事に集中しすぎた。父の姿が見えない。つくづく一緒に歩いていても後ろを振り返ることのない人だと思っていたが、今回はそうとわかっていてぼんやりしていた沙瑛にも落ち度がある。
だがここ数年は父と二人で出歩くことなど近所のコンビニ程度しかなかったのだ。この広い初めて訪れるモール内ではぐれた時にどういった行動をとればいいのか沙瑛は知らない。
途中で沙瑛が着いて来ていないに気が付いて引き返してくるかもしれない。ここにじっとしているべきだろうか。しかしいつ気付くかもわからない。放送で呼び出してもらうべきだろうか。でも、どこで?
専用の窓口か何かがあるのか?……何もわからない。
モール内だ、いくつも店がある。店員さんに事情を説明して助けてもらえばいい。わかっていても体が動かない。どうしよう、どうしたらいい。どうするのが正解なのかわからない。
呼び出しをかけた場合、恥ずかしい思いをしたと後で怒られるかもしれない。ここでじっとしていたとしてもなぜ誰かに頼らなかったと問い詰められる気がする。そもそも沙瑛が気を逸らして父を見失ったのが悪いと言われるのではないか。
……父が気付かないうちに追いつくしかない。次にどの店舗に向かうのかは聞いていないが、案内板でこの先にある店の情報を見てアタリをつけよう。そうと決まれば一秒でも無駄にはできない。急いで父を探さなくては。




