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俵型のおにぎり  作者: 悠莉
過去
10/10

10 雷雨

 その日は、朝から土砂降りだった。どんよりとピンクがかった薄暗い空気が強く吹き付けて、窓がガタガタと鳴っている。

 せっかくの休日だが、これではどこへも行けそうにない。どうせ家にこもるしかないのならと、後回しにしてきた自室の荷解きを進めることにした。季節違いの衣類や本、ぬいぐるみなどが詰まった箱がまだいくつもある。


 沙瑛(サエ)の部屋には、中途半端に封だけ開けた箱と寝具以外、何もなかった。学習机も、集合住宅の内廊下に面した小さな窓しかないとはいえ、カーテンすらない。

 造り付けの小さなクローゼット以外の収納場所がなくては、箱から荷物を取り出すこともできなかった。


 おそらく父は沙瑛の部屋を覗いて見たこともないだろう。沙瑛から言い出さなければ、不足に気付くことは無い。父は沙瑛に興味がないのだ。


 しかし昨晩戻るはずだった父はこの天候で足止めされているし、普段から顔を合わせる機会が少ない父子の間には妙な緊張感があった。たまに父が在宅していても、あれが無いこれが無いと訴える度胸が沙瑛にはなかった。


 引っ越しが決まった時には"持って行かない"という発想すらなかった玩具や細々としたガラクタが詰まった箱たちは、まったく手を付けられずに部屋の隅に追いやられている。

 おそらくそれほど遠くないうちに起こるだろう次の引っ越しまでに、内容物に変化のなさそうな箱の山。


 こんなことなら祖母の家に置いてくれば良かった。年上のいとこたちの所持品だったであろう玩具やゲーム機、マンガ雑誌がたくさんあった家のことを思い返しながら、物思いにふける。


 自分の学習机は置き去りにされてしまったようだ。もう越してきてから数か月は経とうというのに郵送されてくる様子はない。

 居間の食卓で日々の勉強をするしかないので、なおさら自室の荷物の放置に拍車がかかっている。


 もはや自室というより物置といったほうが正しい。衣服の入れ替えをした後、中身を出されることのなかった箱には再び封をし、部屋の一角にきちんと積み上げておくことにした。


 台風がやってくる。

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