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第98話 未知数の男

「まさか、こんなことになるとはな」


「これって、本当に王宮に続いているんですかね?」


「あの状態で嘘はつけないだろうしな。……面倒なことになってきたよ、本当に」


 俺たちは教会から続いている地下の道を走っていた。【潜伏】をしながら走っているが、今のところ誰にも会っていない。


 少し湿りけがあって冷たい地下の道を走りながら、俺たちは王宮の地下室に向かっていた。


 盗賊団の所にいた神父に話を聞いたところ、この地下の道の先は王宮の地下に繋がっているらしい。


 そして、その攫われた女性はその地下から続く地下室にいるとのこと。


 ハンスさんから国と繋がりがあることは聞いてはいたけど、まさかここまでがっつりだとは思わなかったな。


「リリ! 【気配感知】に反応がある。少しゆっくり行くぞ」


「はい!」


 しばらく地下の道を走っていくと、ようやく端に到着したのか行き止まりに二人武装をした人間がいた。


【潜伏】をしているおかげでこちらには気づいていないみたいだが、装備品を見るに先程いたような盗賊団のような輩ではなかった。


 ……国の兵士だろうな、明らかに。


 ゆっくりと近づいてみたが、二人は俺たちの存在に気づいていない様子で世間話をしているようだった。


 このまま二人を眠らせてもいいが、地上への上がり方も聞きたいな。


 俺はそう考えると、片方の男だけを鷲掴みにして、もう片方の男には手のひらを向けて魔法とスキルを発動させることにした。


「『スリープ』、【催眠】」


「きゅ、急になにがーーzzz」


「どうした……ん、だ……」


 俺が二人に『スリープ』と『催眠』をかけると、スリープをかけられた男はその場に膝から崩れ落ちて倒れた。


 そして、もう一人の男は虚ろな目をしてただぼうっと立っていた。


「よっし、無力化完了だ」


「鮮やか過ぎません?」


「……もしかしたら、本当に潜入に向いているのかもしれないな」


 教会堂に入って警戒音が鳴ったときはどうなるかと思ったが、【道化師】のスキルをもっと上手く使うことができたら、本当にどんな場所にでも潜入できるような気がしてきた。


「それじゃあ、続けるか『ここから上に出るにはどうしたらいい?』」


 俺が【催眠】を使って男に話しかけると、男は座った目をしたまま静かに口を開いた。


「鍵がある。そこにある梯子を使って登ったあとに、これを使えば外に出すことができる」


「なるほど。ご苦労さん。『スリープ』」


「……zzz」


 俺はその男から鍵を受け取ると、男に『スリープ』の魔法をかけてその男をそこに寝かせた。


 ……さて、問題はここからか。


 そんなことを考えながら、俺は近くにあった梯子に足をかけて上っていった。上った先には何か蓋をしているような物が乗せてあったので、俺は男から受け取った鍵を使ってその隅の鍵穴にそれを入れた。


 かちりと音がしたので、その蓋を押してみると案外簡単にその蓋ははずれて、久しぶりに俺たちは地上に出ることができたのだった。


「リリ、救出作業は任せたぞ」


「はい? それってどういうーー」


 リリは俺の視線の先を見て、聞き返してきた言葉を途中で呑み込んだ。


 俺達が地上に上がった先、俺たちの前に一人の男が待ち構えていた。


 無造作に伸ばしっぱなしになっているような黒髪に、角ばったような大きな肩幅。服の上からでも分かる膨れ上がった筋肉は、常人のそれではないことが一目で分かった。


 王宮にいるにしては品にかけるし、盗賊団というような小物感はない。


 体を守る防具は着けておらず、長剣を鞘から引き抜いて、【潜伏】をかけているはずの俺たちのことをじっと見据えていた。


 何者だ、こいつ。


「……私達のこと、見えているんでしょうか?」


「ああ、多分な。ただのスキルとかだと助かるんだけどな」


 スキルや魔法によって俺たちのことを見ているのなら、上手く出し抜くことができるかもしれない。


 しかし、最悪のケースがステータスやレベルに差があるから、【潜伏】が効きにくくなっているという場所。


 そうなってしまっては、どうすることもできないだろう。


「お姫様を救出に来たのかい? この色男」


 その男は俺たちのことをじっと見ながら、口角を微かに上げていた。


 随分としっかりとこっちを見ているし、神父のときとはバレ方が明らかに違う。


「あ、アイクさん」


「リリ。俺があいつに切りかかった瞬間、あいつの横を通り過ぎて攫われた女性を探しに行ってくれ」


「……分かりました」


 この部屋には攫われた女性がいない。となると、どこか別の地下室にいるということだ。時間も無限にあるわけでもないし、ここは二手に分かれた方がいいだろう。


俺は【肉体強化】、【道化師】、【剣技】という複数のスキルを同時に発動させて、相手の様子を窺った。


 もしかしたら、【潜伏】が少しは効いているかもしれない。それなら、その効果が効いているうちに、全力の一撃を叩き込んでやる。


「行くぞ、リリ」


「はいっ」


 俺はリリに合図を出した後、地面を力強く蹴った。


【道化師】のスキルを使って、身軽になった体に【肉体強化】のスキルと【剣技】のスキル。オーバーキルのようなスキルの重ねがけだが、本能的にこの男には全力で臨まなければならないと感じていた。


 俺はその勢いのまま短剣を引き抜いて、渾身の一撃をその男に向けて放った。


 その瞬間、何かが爆発したかのような金属音が部屋に響いた。確かに男を切りつけたはずだったが、俺の短剣にあった手ごたえは肉を切った物とは明らかに違っていた。


「おっ、中々良い一撃だな」


 俺の渾身の一撃は、その男には届いていなかった。


 ギリギリと金属が擦れる音が聞こえている先には、俺の短剣を受け止めた男の剣があった。


 止めた? ただでさえ高いステータスに、スキルを重ね掛けしたんだぞ?


 そんなふうに現状を上手く把握できないでいた俺に、その男は何かを待ち焦がれていたかのうな少年のような笑みを浮かべた。


「そらっ、お返しだ」


 そして、次の瞬間に男の刀が目の前から消えたような気がした。手の先から一瞬、線のような物が見えただけ。


 そう思った次の瞬間には、目の前に赤い液体が散っていた。


「は?」


 やけに距離が近いところにある赤い液体。それが俺の血であることに気がついたのは、遅れてきた痛みが体に走ってからだった。



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