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第97話 潜入と【道化師】の相性

「リリ! 【潜伏】は解くなよ!」


「はい、大丈夫です!」


 教会堂に入るなり、防犯用の魔道具が作動してしまい、俺たちは潜入に失敗してしまっていた。


 離れの建物から多くの気配がこちらに流れ込んでいるが、俺たちには【潜伏】のスキルがある。


 このスキルを発動している限り、潜入したことがバレても、俺たちの存在は目視で確認できないはず。


 それなら、まだなんとか挽回のチャンスもあるかもしれない。


 俺たちは魔法具が反応した場所から離れようと、教会堂を入って奥へと進んでいた。


 そして、その動きに合わせるかのように、背後から多くの気配が追ってきていた。


 俺たちの姿は見えていないはずだが、結構な速度で俺たちの後ろから追ってきている。


 ……どういうことだ?


 どんどん奥へと走っていくと、礼拝堂のようなところに出た。椅子が並び、教壇のようなものもある。


「リリ、ここで迎え撃つぞ。相手の出方次第で、戦闘だ」


「はいっ!」


 俺たちは教壇の前に立つと、こちらにやってくる気配を前に立ち向かう準備をした。


 どこかに隠れた方がいいかもしれないが、変に狭い所に隠れるよりも迎え撃ったほうがいいだろう。


 俺たちの場所が分かる魔法具なんかを持たれている可能性もあるし、それなら【潜伏】のスキルを発動させたまま、広い所で構えた方が良い。


 そう思って正面から構えていると、二十人ほどの気配と共にガラの悪い連中が俺たちの前に現れた。


 腰に武器をぶら下げて殺気立っている様子は、とても教会にいるにはふさわしいとは言えないだろう。


「おい! ここにもいないぞ!」


「ちくしょう、他の部屋か? 探せ探せ!」


 ガラの悪い男たちは、正面にいるはずの俺たちに目もくれず、辺りをただきょろきょろとしていた。


 どうやら、正面にいる俺たちには気づいていないみたいだ。


そして、【潜伏】の効果が十分に発揮されているということは、俺たちよりもステータスが下ということになる。


 最悪、戦闘になっても何とかなりそうだけど、このままやり過ごすか。


こいつらが出ていってから、また誘拐された女性を探せば何も問題はーー


「おい、神父! ここにはいなさそうか?」


「『サーチ』……いえ、この部屋にいるみたいですな。教壇の近くに、何かしらの気配を感じます」


「「え?」」


 安堵のため息を漏らそうとした瞬間、盗賊と思われる奴らの間から、すっと短い白髪の男が現れた。司教服を身に纏った初老の男は、俺とリリの間にそっと指をさして、そんなことを言ってきた。


【潜伏】が効いてない?!


 聖職者が使える特別な魔法なのか分からないが、その神父は俺たちの場所を大まかに言い当ててきた。


「……リリ。少し跳ぶぞ」


「え? わっ」


 俺は【道化師】と【肉体強化】のスキルを使うと、リリを抱えて少し離れた窓枠に跳び乗った。


 体を軽くしてから肉体の強化をしたジャンプは、リリを抱えた状態でもひらりと飛ぶことができて、簡単に移動をすることができた。


「て、手荷物になった気分です」


「……いや、それはなんかすまん」


 そんなふうに少し会話をしていると、盗賊の一人が腰から剣を引き抜いて、俺とリリが先程までいた場所に剣を振り下ろした。


「どうだ?! やったか?!」


「いえ、今度はそっちに移動したみたいです」


 神父はまた的確に俺たちのいる箇所を指さして、俺たちのいる場所を周囲にいる盗賊たちに知らせた。


 じりじりとこちらにやってくる盗賊たちを前に、俺はこの状況を打破させる方法がないか頭を悩ませていた。


 スリープで全員を眠らせるか? いや、さすがにこれだけ多くの人数にスリープをかけるのは大変だよな。


 そして何より、一人にスリープをかけた時点で、俺たちが姿を消して襲いだしたということが確かなものになってしまう。


 今はまだ神父の言っていることを半信半疑で信じている状態だが、これだけの相手に本格的に戦闘態勢を取られるのは面倒だ。


 何か、他の方法はないだろうか?


 この状況を【道化師】の力を使って、何とか打破できないだろうか?


 道化師がすることいえば、マジックとジャグリングと、あとはーー。


「……リリ。ここで少し待っていてくれ」


「え、はい」


 俺はリリを窓枠の所に残すと、スキルを使った状態のまま神父の目の前に飛び降りた。音を立てずに飛び降りたというのに、神父は俺が跳び降りて少しすると俺の気配に気づいたようで、目を見開いて驚いた顔をしていた。


「はっ、今度は気配が私の前にーー」


 そして、俺はそのまま手のひらを神父の顔の前に持っていき、【道化師】のスキルの中から、とあるスキルを発動させた。


「【催眠】。『私の前にいた気配は、いなくなりました。いえ、元からーー』」


「元からいなかったのかもしれない。念のために、私はもう少し教会堂を探しておきます。もしかしたら、人間ではなく霊的な存在なのかもしれませんね」


 俺の言葉は【催眠】をかけている神父本人のみに聞こえているようで、神父は座ったような目で俺の言葉を復唱していた。


 どうやら、上手くスキルを発動させることができたらしい。


【催眠】。その名の通り、一定時間相手を自分の思い通りに動かすことのできるスキルみたいだ。これも、レベルとステータスによって使える相手が限られるみたいだが、現状をひっくり返すのには十分なスキルと言えるだろう。


 道化師が催眠をかけてお客さんを驚かせることもあるよなと思ったら、案外すんなりとこのスキルを見つけることができた。


 一見、馬鹿馬鹿しい話に聞こえるかもしれないが、教会という場所で神父がそんな話をすれば、例え盗賊と言えども信じないはずがない。


「れ、霊って、マジかよ。……わ、分かった。俺たちは戻ってるわ!」


 盗賊たちは神父の話を簡単に信じたようで、声を上ずらせながらそんなことを言うと、礼拝堂を足早に後にしていった。


 そして、残されたのは俺とリリと神父の三人。


「ふぅ」


 俺は少しの緊張感から解放されて、短く息を吐いて脱力していた。


「アイクさん、なんだか何でもありみたいですね」


「ああ。まさか、こんなスキルまで使えるとは思わなかったな」


 盗賊たちが去ったのを見てから、俺の隣に駆け寄ってきたリリにそんなことを言われて、俺は思わず苦笑してしまった。


 土壇場でここまで力を発揮できるとは思えなかったな。


 俺はぼうっとしたように正面に立っている神父に、引き続き【催眠】のスキルを発動させたまま質問をすることにした。


「それじゃあ、次は攫ってきた女性の場所を吐いてもらおうか。『最近、ミノラルから位の高い女性を攫ってきただろ? その人は今どこいる?』」


「……ここには、いない」


「いない? いや、そんなことはないだろ。じゃあ、どこにいる?」


「秘密の通路で、すでに身柄は引き渡した」


「秘密の通路? それはどこにある?」


 俺がそこまで言うと、神父は熱に浮かされたような足取りでよろよろと歩いていき、教壇にあった机を力強く押して横にずらした。


 そして、動いた机の下には不自然な切込みが入っていた。そして、その隣には変わった形の穴が開いている。


「なんだ、この穴」


「なにか、鍵的な物でしょうか?」


 神父は服をがさがさとやりながら何かを探し出すと、変わった形のそれをその穴の部分に入れた。


その後に、少しカチャカチャと動かした後、てこの原理でその切れ目を動かして、床を外した。


「……まじか」


 外された床の下には梯子があり、その下には奥深そうな真っ暗な穴が広がっていた。


 どうやら、女性を奪還できるのはまだ少し先になりそうだった。


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