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第84話 依頼の達成報告

「あ、アイクさん、お久しぶりです」


「ミリアさん、お久しぶりです」


 俺たちはクエスト達成の報告をするために、ミノラルの街に戻っていた。


 タルト山脈で数日過ごしたりしていたため、ミノラルに帰ってくるのが少し遅くなってしまった。


 まぁ、途中からは徒歩でしかタルト山脈を進めなくなったし、仕方がないだろう。


 冒険者ギルドに顔を出すと、ミリアがこちらに手を振っていたので、俺たちはミリアがいるカウンターへと向かって行った。


「あれ? ワンちゃん飼い始めたんですか? 可愛いですね!」


「きゃん!」


 俺の後ろをとててと付いてくるポチを見て、ミリアは顔を綻ばせていた。はやり、可愛いものを見ると、人間は自然と笑顔になるらしい。


そして、どうやら、俺たちと同じくミリアもポチをただの犬だと思っているようだった。


「いちおう、使い魔なんですけどね。このサイズだったら、一緒に冒険者ギルドに入っても大丈夫ですよね?」


「あれ? 使い魔なんですか? このサイズでしたら問題ないですけど……本当に使い魔、なんですか?」


 ミリアは俺たちの言葉を信じられないのか、首を傾げてポチを眺めていた。そんな不思議そうな顔で見られて、ポチも戸惑うように首を傾げていた。


「ちなみに、お名前は?」


「ポチですね」


「……ワンちゃんじゃないですか」


「いや、まぁ、名前はそうなんですけどね」


 普通は、どんな魔物か確認してから使い魔にするのだろう。可愛くて契約と名前を付けた後に、どんな魔物か知ったなんて言っても信じてもらえないと思う。


 ましてや、こんな可愛らしい顔をしておいて、フェンリルだなんて信じないだろうな。


「お、帰ってきたか。アイク」


「あっ、ガリアさん」


 俺たちがカウンターで話しているのが聞こえたのか、ガリアが奥の部屋からゆっくりと出てきた。


 俺たちの顔から、クエストが達成したことを察したのか、その顔には微かに笑みが零れていた。


「クエストの達成報告か?」


「はい。ちょうどその報告に来たところです」


「そっか、お疲れさん。奥で話を聞こう」


 ガリアは俺たちについてくるように視線で促して、奥の応接室の方に行こうとした。


俺はそんなガリアを引き留めるように少し手を伸ばしながら、首を傾けて言葉を続けた。


「奥ですか? いえ、多分、冒険者ギルドの裏にある倉庫とかの方がいいかと思うんですけど」


「倉庫?」


 俺に呼び止められたガリアは俺の言葉の意味が分からないと言った様子で目を細めていた。


 いや、倒したワイバーンを応接室で出せるわけがないと思うのだが。


 しばらくの間、俺たちは互いに何を言っているのだろうという視線で見つめ合ってしまった。




「おう、アイク。久しぶりじゃーーえ? なんで、ガリアさんと一緒にいるんだ?」


「バングさん、久しぶりです。えっと、クエストの達成報告に」


 結局、ガリアとミリアは不思議そうな顔をしながら、俺たちの後ろをついてきていた。


 俺たちとガリアが一緒にいることに驚いていたバングに軽く挨拶をして、俺達はそのまま倉庫の奥へと入っていった。


 倉庫の空いているスペースまで移動してから、俺は振り向いてガリアにクエストの報告を始めた。


「とりあえず、『ドニシアとミノラルの中間地、タルト山脈についての調査』についてですが、ワイバーンが暴れているとのことでした」


「……なるほど、ワイバーンか」


 ガリアは俺の報告を聞いて、真剣な顔つきで静かに何かを考えるような素振りをしていた。


 まるで、初めてワイバーンが出たことを聞いたかのような反応。


 おかしいな。ワイバーンが暴れていることは知っていると思ったのだけど。


 俺とリリは顔を見合わせてガリアの反応に首を傾げた後、言葉を続けた。


「そして、こちらが暴れていたワイバーンになります」


 俺はアイテムボックスから倒したワイバーンを取り出して、そこにあるシートの上に置いた。


 黒っぽい鱗を身に纏い、翼の生えたトカゲのような魔物。大きさ的には俺の三倍ほどの大きさだったと思うのだが、こうして倉庫に出すと結構大きくも感じるな。


 そして、少し神秘的な感じもする。


「ん? ……はっ?!」


「ワイバーンが暴れていたので、それを倒してきました」


 俺がさらりとそんなことを口にすると、ガリアは驚いたように目を見開いてこちらに顔を向けていた。


 ガリアさん、意外に表情豊かなんだな。


 そんなことを思いながら、その顔を眺めていると、ガリアは少し焦ったように言葉を続けた。


「ちょ、調査を依頼しただけだぞ? 現場に向かわなくてもいいと言ったはずだったが?」


「え、それって、現場に行けっていうフリだったのでは?」


「わ、ワイバーンのところにフリで向かわせるわけがないだろ。な、何をどうしたら、そんな考えになるんだ?」


 ガリアはまるで奇天烈な物を見たかのように、眉を潜めて呆れと驚きが混じったような表情をしていた。


 いや、リリと二人で確認をして、二人とも全く疑わなかったはずだったのだが。


 もしかして、本当に冒険者ギルドで話を聞いてくるだけでよかったのか?


 そんな言葉通りに受け取っていいなんて思わなかった――あれ? なんか、前にも同じようなことがあった気がしたな。


「た、倒したんですか? ワイバーンを? アイクさん達がですか?」


 しばらく言葉を失っていたミリアは、大きく見開いた目をワイバーンに落したまま、そんな言葉を漏らしていた。


 何かやけに驚いていると思ったら、そう言うことか。


 確かに、二人のD級冒険者がワイバーンを倒してきたと思ったら、驚くかもしれないな。


「あ、いや、俺たちというよりも、この子が結構弱らしてくれていたみたいです」


「きゃんっ!」


 俺に褒められたと思ったのか、ポチは小さな体をピンと逸らして誇らしそうしていた。それでも、抑えきれない嬉しい感情があるようで。尻尾はパタパタと動いてしまっていた。


「いや、犬にワイバーンは倒せないだろ」


 俺がギャグでも言ったと思ったのか、バングが呆れるように苦笑交じりにツッコミを入れてきた。


 そういえば、まだみんなに紹介できていなかった。騒がれると思ってあえて口にしなかったが、ポチの正体を隠したままクエストの報告をするのは無理だろう。


「いや、この子犬じゃないんですよ。ポチはフェンリルなんです」


「「「……え?!」」」


 フェンリルが目の前にいることに驚いたのか、俺の使い魔がフェンリルであることに驚いたのか、三人はしばらく言葉を失った後、声を揃えて驚きの言葉を発していた。


 おそらく、その両方に驚いているのだろう。


「……フェンリルにポチって名前を付けたんですか?」


 ミリアだけが、別の所にも驚いているみたいだった。


 いや、そこは俺も気づかなかったわけで、あまり深く追求しないで欲しい。


 俺だって、フェンリルだと気づいていれば、もっといい名前にしたさ。


 ……フェンちゃんとか?


「ふっ」


 俺は自分のネーミングセンスのなさに、一人で失笑を漏らしてしまっていた。


 驚く三人と、俺が褒められたと思って胸を張る一人と、一匹。そして、失笑をする俺。


 そんな多くの感情が入り混じった状況で、俺はギルド長からの依頼の達成報告を済ませたのだった。


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