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第55話 アイクの評価

「ガルドさんのからの依頼を受けてきたんですか?!」


 俺は色々と誤解をしていた三人に説明をして事の顛末を話した。


 この一週間はガルドの依頼で鉱石の街と言われるラエドに言っていたこと。そして、そこでクリスタルダイナソーから奪った鉱石の集合体の報酬として、屋敷と短剣を貰ったことを説明した。


 その屋敷をもらうときのくだりを説明してプロポーズの誤解も解いたのだが、女性陣は少し納得してなさそうな目をしていた気がする。


 そして、話はガルドという鍛冶師についての話になっていた。


 意外にもガルドの名前に反応したのは、イーナだった。


 鍛冶師にあまり興味がないのか、リリの料理が美味しすぎたせいか、ミリアとバングは美味い美味いと言って料理を感動しながら食べていた。


 俺も負けじとリリの料理を食べながら、リードからもらった酒を味わっていた。


それでも、食べる手を止めて話に食いついてくれたイーナをそのままにすることはできかったので、俺は口の中のものを呑み込んで口を開いた。


「イーナ、ガルドさんのこと知ってるの?」


 ずっとイーナに敬語で話していたのだが、イーナが距離を感じるからやめて欲しいと言ってきたので、自然と呼び名も変わることに。


「知ってるもなにも、この国で三本の指に入る鍛冶師でしょ?! な、なんで冒険者のアイクくんが知らないの!」


 イーナは少し身を乗り出してそんなことを口にしていた。


 これだけぐいぐいっと来てくれるのも、きっと距離が近くなった証拠なのだろう。


 別にお酒に酔ってるからとかではないと思う。……違うよな?


「いや、俺武器とか詳しくないんだって。使ってた短剣も昔安く買った奴だし」


「結構武器とか高いので、ある程度裕福な冒険者じゃないと武器に詳しくはなったりしないんですよ」


 そんなふうにぐいっと来ていたイーナから俺を助け出すように、ミリアは度数の高めの酒を飲んだ後にそんなことを口にした。


 ミリアってお酒強いんだと思って顔を見ていると、結構顔が赤くなっていることが見て取れた。


「良い武器を持っていても、負けてその理由をギルドのせいにしてくる人もいますしねっ!」


 ミリアは何かを思い出したように眉間に皺を入れながら声のボリュームを上げた。


 どうやら、完全に酔っているようだ。そして、お酒に強いのではなく、ただ酔いたい気分で酔っているみたいだった。


「ああ、ギースって冒険者のことか」


「え、ギースが何かあったんですか?」


 何かを知っているような口ぶりのバングに話を振ると、バングは陽気な笑みを浮かべた後に、当時のギースの言葉遣いを真似るように口を開いた。


「『俺たち達が負けたのは魔物が強化されていたからだ!』とか言って、ギルドに怒鳴り込んでくるんだと」


「きょ、強化? 魔物が何者かに強化されるなんてことあるんですか?」


 そんな前例は聞いたことがなかった。俺がギースの言葉を本気にしていると、バングは砕けた口調のまま言葉を続けた。


「適当なこと言ってんだってよ。どうしても、自分達が負けたことにしたくないらしい」


 クエストを失敗した場合、依頼内容によっては罰金が発生したりする。でも、その罰金だって払えないほどではないはずだ。


 そして何より、そんな失敗をなすりつけて踏み倒すなんて我儘通るはずがない。


「め、滅茶苦茶過ぎません?」


「そうなんですよ! 最初のうちはギースさん達が騒ぎ散らすから、捜査隊を作ってそのクエストの調査にまで行ったんですよ? それなのに何にもなくてっ、人件費いくらかかったと思ってるんですかって話ですよ!」


 ミリアはそう言うと、コップに半分以上残っていたお酒を一気に空にした。


 な、なるほど。これか、バングが言っていたミリアのストレスというのは。


 気を利かせたリリがミリアのグラスにお酒を注いでいるが、その度数の物をそんなに注いでしまって平気なのだろうか?


 うわっ、一気に四分の一くらい飲んでる。


「元は実力のあったパーティだったんだろ、なんで急に弱くなったんだろうな」


「そんなの決まってます。アイクさんが抜けたからです」


 そんなことをバングがぽろっというと、ミリアに注いだ酒の瓶を持ったまま、リリが当たり前のことを言うかのような口調でそんなことを口にした。


 リリは【助手】のスキルを使うまで俺をずっと見ていたと言っていた。だから、リリはギースのパーティにいたときの俺の働きを知っていてくれているのだろう。


 でも、あの時の俺はただのF級の冒険者。俺が欠けたことが原因なんて誰も信じないだろう。


 そう思うと、少しだけ現実に戻された気がして、酒の酔いが微かにさめそうになった。


「ありえるわね」


「アイクってあそこのパーティだったのか。まぁ、アイクが抜けたらでかいだろうな」


「そういえば、アイクさんが抜けた時期と被る気がしますね」


「え?」


 しかし、俺の思った反応と周囲の反応は違っていた。俺が思わず間の抜けたような声を漏らすと、バングが俺の反応を見て首を傾げていた。


「何驚いてんだ、アイク」


「いや、え? 俺、当時F級の冒険者ですよ。俺が抜けたのが原因なんて思いますか?」


 自分で言っていて悲しくなるが、それが周りからの評価なのだと思っていた。


 自分を下げるようなアピールをするという謎の構図になってしまい、なぜか俺は慌てるような口調になっていた。


そんな俺の発言を聞いても、三人は特に意見を変えることなく言葉を続けた。


「そんなの関係ないだろ。あれだけの魔物を狩ってくる奴がF級っていうのがおかしかっただけだ。客観的に見て、お前がパーティから抜けたら大変だろうよ」


「アイクくんがまだD級なのって、なんでなんですか?」


「シンプルにクエストを受けている回数が少ないんですよ。それなのに、クエスト受けないで、レベルガンガン上がっていくんですよ。一週間くらい会わなかったら、ステータス二倍くらいになってるんですから、毎回驚かされてますよ」


 今の俺だけではなく、当時の俺までも称賛してくれるような言葉。そんな反応をされて、俺は目の前で繰り広げられている会話が信じられなかった。


 ちらりと、隣にいるリリの方に視線を向けると、リリはそんな三人の反応を分かりきっていたかのように落ち着いた反応をしていた。


 いや、少し得意げに口元を緩めているようだった。


 そんなふうにリリを眺めていると、不意にこちらを向いたリリとぱちりと目が合った。


 リリは微かに酔っているのか、頬が少し朱色に染まっているようだった。そして、そんな頬をそのままに、リリは微かに口元を緩めた。


そのリリの瞳は、私だけはずっと知っていたと言いたげで、微かな自慢げな色が見えた気がした。


 どうやら、俺は気づかないうちに周りから評価をして貰える人間になっていたらしい。


 ギースのパーティを出たことで、ようやく自分のことを評価してくれる人達に出会うことができた。


 少し過剰な評価を受けている気もするが、それが俺の評価なら喜んで受け取ってしまいたくなった。今はそんな気分だった。


 そして、そう思うと酒が進んで、酔いもいつもよりも早くなった気がした。


 夕方から酒を飲んで笑い合う。たまにはこんな日があってもいいなと俺は静かに思うのだった。


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