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第54話 勘違いとお祝い品

「……いや、送り過ぎだろ」


 俺は屋敷に戻ってリードから送られてきたお酒を受け取っていた。勝手に一二本だろうと思っていたのだが、瓶に入ったお酒が十本くらい送られてきた。


 それも見た感じ安物という訳ではないようだった。


 そこまで気にしないでいいのにな。


 俺が送ってもらったお酒が詰められている木箱を運んで、キッチンに向かうとリリがさっそく料理をしていた。


 エプロン姿の女の子がキッチンで料理をしているという景色が少し眩しく、あまり見つめていると心臓に良くない気がしたので、俺はお酒を冷蔵室にしまってその場を去ることにした。


 それでも、不意に目でリリのことを追ってしまうと、リリとぱちりと目が合ってしまった。


 ただ目が合っただけなのに優しく微笑みかけられると、こっちの調子を崩されそうになってしまう。


「あ、えっと、何か手伝うことあるか?」


「いえ、大丈夫です! ここは助手のリリにお任せください!」


 エプロン姿で誇らしげにそんなことをリリの姿の手元には、もうすでにいくつかの料理ができていた。


 明らかに二人で食べるには多すぎる量。その理由は、今日ここで食事をする人数が二人ではないからだった。


「アイク~」


「あ、もう来たみたいだな」


 俺は玄関の方でノッカーの音とバングの声がしたので、キッチンをリリに任せて玄関へと向かった。


 玄関の扉を開けると、そこにはバングとイーナ、そしてミリアがいた。


 冒険者ギルドの帰り道にちょうどバングとイーナがいたので、魔物肉を食べながら酒でも飲まないかと誘った所、二つ返事でOKをしてくれた。


 どうやら、イーナはミノラルに用事があってきていたようだった。せっかく魔物肉を食べるなら、今後商品を扱うことになるバングとイーナに食べて欲しかったので、ちょうどよかった。


 バングが最近疲れているだろうからミリアも誘ってあげてもいいかと聞かれたので、もちろん許可をした。


 ギルドの仕事というのもストレスが溜まるのだろう。酒ならあるし、ストレスを発散してもらえるのなら喜ばしいことだ。


「おう、アイク! 今日はありがとうな。これは祝い品だ」


「アイクくん、誘ってくれてありがとうね。私からはこれを」


「アイクさん、今日はありがとうございます。私はこれを持ってきました」


 なぜか三人はそれぞれ手土産を持っていた。それも何か食べ物や飲み物ではない形状のものを持っている。


「え、ありがとうございます」


 祝い品? 新居祝いとかそういうものだろうか?


 俺は首を傾げながらも貰ったそれらを手に持って、三人をリビングへと案内した。屋敷を案内しながらだったので、少しだけ遠回りになってしまった。


 そして、リビングに着くとそこにはちょうど良いタイミングで料理が運ばれてきた。


 机の上にはブラックポークの角煮と、ファング肉のロースト、ワイドディアのステーキや果物を使ったパイやサラダなどが並んでいた。


 そして、そんな店でも見られないような料理の数々を見て、三人は言葉を失って驚いていた。


 部屋の中にいるだけで食欲をそそられる香りに包まれており、眺めているだけでよだれが垂れてきそうだった。


何度かリリの作る料理を見たことがある俺でさえも、生唾を呑み込んでいた。


「え? な、なんだこれ。シェフでもいるのか?」


「いえ、料理は全部リリがやってくれました」


「リリちゃんが?! リリちゃんって、料理もできるんだ」


「うふふっ、助手ですからね!」


 リリは食べる前から料理を褒められて嬉しそうに口元を緩めていた。そして、リリは上機嫌のままお酒を冷蔵室から持ってくるためにリビングを後にした。


「はぁ、アイクもいい嫁さんをもらったなぁ」


「嫁? いや、何のことですか?」


 俺が三人からもらったお土産を離れた机に置いていると、バングがそんなことを呟いていた。


 何のことを言っているのか分からずに首を傾げると、三人が俺以上にきょとんとした顔をしていた。


「何のことって、え? リリちゃんと婚約したんじゃないの?」


「婚約?! いや、してませんよ!」


 急に思いもよらないことを言われたので、俺は驚いたように声が大きくなっていた。そして、俺以上に俺の返答に三人は驚いているようだった。


 なんだ、何か共通認識がおかしい。


 すると、ゆっくりと答え合わせでもするかのようにミリアが口を開いた。


「私はバングさんから、アイクさんが身を固めて屋敷を構えたから婚約祝い品を持っていこうって言われて、持ってきたんですけど」


「……まさか」


 俺はバングから受け取ったお土産のラッピングを開封してみた。すると、そこには包まれていた物はーー赤ちゃんの抱っこ紐だった。


「いや、男が屋敷を構えるって言ったら、なぁ?」


 バングはそんなことを言うと、気まずそうに頬を掻いていた。


 三人にちらりと視線を向けると、三人ともバングと同じような表情をしていた。


 ということは、他のお土産も同じようなものということなのか?


「お酒持ってきましたよーって、あれ、皆さんどうされたんですか?」


 結局何が正しいのか分からなくなった場を整えるように、イーナが困惑したように口を開いた。


「えーと、アイクくんがリリちゃんにプロポーズとかはしてないの?」


「え?」


 そんな話を振られたリリは瞳をぱちくりとして固まっていた。それから、何かを思い出したように頬を赤くしてしまった。おそらく、ガルドの家で屋敷を貰うときのやり取りでも思い出したのだろう。


 そして、どうやらあのときのことを最後まで思い出したのか、リリは頬の熱をそのままに少し不貞腐れるように微かに頬を膨らませた。


「……されましたけど、弄ばれただけでした」


「アイクさん?」「アイクくん?」


 リリの言葉を受けた瞬間に厳しくなった女性陣の目。それに加えて、何かを察したような表情をするバング。


「いや、違う! 色々と誤解をしている!」


 俺は家主のはずがアウェーな状況に追いやられてしまわないように、必死に誤解を解くのだった。





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