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第189話 その後のデロン村

 へミス様の教会に乗り込んだ数日後、何も知らないふうを装って村に戻ってきた俺は、村長の家に来ていた。


「山の方の調査をしてきたんですけど、特に怪しい所はなかったですね」


「その件なのですが、冒険者の方たちがいない間に色々あって解決しましたよ。まったく、ひどい奴らに騙されていたものです」


「騙されていた? 何かあったんですか?」


 初めに会った時に比べて、心なしか顔色が良くなった村長の首元には、以前にかけられていた十字架の首飾りはなくなっていた。


 衰弱の呪いのかかっていた首飾りを外して、少しは健康的になったのだろう。どこか喋り方にも覇気がある気がした。


「へミス教とかいう宗教は詐欺師集団によって作られたものだったのです。呪術師の男が呪いをかけて、我々を弱らせていたとか」


 長年騙されていた怒りがそう簡単に消えるはずがなく、村長は眉間に深い皺を入れてため息を吐いていた。


 辺りを見渡すと、そこには以前来たときにあった不気味な木彫りの人形も、壺も水晶もなくなっており、少しだけ寂しくなるほどシンプルな部屋になっていた。


 抵抗力を弱らせる呪いもなくなったみたいだし、あとは体の自然回復で体調が良くなるのを待つだけだろうな。


「そうそう、『ミノラルの道化師様』がその悪事を暴いてくれたのです。集会の日に颯爽と現れたらしく、詐欺師どもは粛清されて数日寝込んだと言っていました」


 村長の話によると、その日にあったはずの集会は中止になり、すぐに解散になったらしい。


それもそうか。主要メンバーが悪夢のような物にうなされ続けたわけだし、それを見ていた関係の薄い聖職者たちもさぞ怖かっただろう。


「その後、目覚めた詐欺師どもは何かに脅えるようにしながら、村の人たちを集めて騙していたことを告白して……臓器を売ってでも、お布施した金を返すと言っていましたね。時折勢いよく後ろを振り向いたり、ガタガタと頭を両手で抱えながら震えて、何かに脅えておりました」


「そ、そんなになっていたんですか」


「まぁ、その後すぐに村の人たちからぼこぼこにされて、憲兵に連れていかれたので、お金が帰ってくるのは少し先になるかもしれませんがね」


 怖がらせて、少しでも多く村の人たちにお金が戻ればいいと思って脅えさせたのだが、その効果はてきめんだったらしい。


 ……まさか、臓器を売るとまで言いだすとは思わなかったが。


 まぁ、これで多少は村が良くなるのなら、ミロルとの約束も果たせただろう。


「じゃあ、もう俺たちが調査をする必要はなさそうですね」


 呪術師たちのその後がどうだったかの確認もできたし、もうこの村でやることもないだろうと思って、村長にお別れを言って家を出ようとしたタイミングで、村長の家の二階からどたどたっという足音が聞こえてきた。


「冒険者のお兄さんたち!」


 その音が近づいてきて、その音の先には寝間着姿のミロルの姿があった。


 何かに興奮しているみたいだけど、朝からそんなに興奮することなんてあるのだろうか?


 もしかして、うるさくして起こしてしまったかなと思っていると、何を思ったのかミロルは勢いよく俺に抱きついてきた。


「うおっ、ど、どうしたんだ?」


「……村を救ってくれて、ありがとうございましたっ」


 ミロルは込み上げてきた感情を抑えるようにしながら、喉の奥を少しだけ締めるような声でそんな言葉を口にした。


 俺とリリにしか聞こえないような声だったが、その分感情を強く込められた言葉だった。


 強く抱きしめられる腕から伝わってくるのは、溢れんばかりの感情で、まっすぐ過ぎる感情を前に俺は少しだけ口元を緩めた。


 どうやら、助けを求めた本人には、これが誰の仕業なのかすぐに分かったようだった。


 そうだよな。さすがに、伝えるって言った次の日に道化師が助けに来たら、それが誰なのか分るよな。


 俺が涙をこぼして鼻をすするミロルの頭の上に手を置くと、ミロルは抱きついていた腕をさらに強くして、頭を押し付けるようにしながら言葉を続けた。


「本当にありがとうございました。道化師様の従者様っ」


「「……ん?」」


 あれ? 今道化師の従者だと言ったか?


 もしかして、ミロルはすぐに道化師がこの村を助けに来たのは、俺が道化師だからではなく、道化師の従者だからすぐに伝わったと思っているのか?


 いや、俺がその道化師本人なんだけど……いや、今はそんなこと指摘しないでもいいか。


 俺は少しの失笑を浮かべながら、感謝を全身で伝えてくるようなミロルの頭をただ優しく撫でるだけにしておいた。


 別に勘違いされていてもいいだろう。結果としてこの村は救われたわけだしな。


 そんなことを考えながら、俺は勘違いをされたまま、しばらくの間ミロルの頭を撫で続けたのだった。



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